テーマ:☆詩を書きましょう☆(8327)
※ ネット発表のものは、出版された詩集とは異なる箇所があります。
※ 本篇の、詩誌AVENUEによるレイアウトは作者校閲を経ています。 田中宏輔著 『全行引用詩・五部作・上巻』 思潮社オンデマンド2015 ¥3,024 詩:田中宏輔さん 「物分かりのいい子ね」とドリーンがニヤリとしたとき、誰かがドアを叩く音がした。 (シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』1、青柳祐美子訳) 「どうぞ!」とドニヤ・カルロータはケイトに言った。(D・H・ロレンス『翼ある蛇』上・10、宮西豊逸訳) あのときもチャーリイ・クラスナーと灰色の明け方に押しかけたのだった。(ジャック・ケルアック『地下街の人びと』真崎義博訳) 「グレーゴル? 気分よくないの? なにか必要なものある?」(カフカ『変身』丘沢静也訳) 老いた膝をぽきぽきと鳴らしながら、スリーンはゆっくりと中腰になって花を見た。(R・C・ウィルスン『無限記憶』第二部・8、茂木 健訳) 「何をクスクス笑ってるの?」とアリスが洗面台から振りかえって言った。(パトリシア・ハイスミス『愛の叫び』小倉多加志訳) 「とってもきれいだね」モンドが言った。(ル・クレジオ『モンド』豊崎光一・佐藤領時訳) ダニエルは傍聴人たちを見つめた。(ギ・デ・カール『破戒法廷』II、三輪秀彦訳) ブラドレーはまばたきした。「なんでしょう?」(R・A・ハインライン『異星の客』第二部、井上一夫訳) 「シャワーを浴びるのはどう?」エリカが尋ねた。(カミラ・レックバリ『悪童』富山クラーソン陽子訳) 「たとえば、こんなふうに?」ナタリがたずねた。(ダン・シモンズ『殺戮のチェスゲーム』第二部・25、柿沼瑛子訳) 「信じられない」とプローコプが考えにふけるようなおももちでつぶやいた。(グスタフ・マイリンク『ゴーレム』今村 孝訳) 「人間の男の心は暗くて不潔です」グンガ・サムはいった。(ロバート・シェクリー『人間の負う重荷』宇野利泰訳) エスターは身震いした。彼女は若者の辛辣なところが嫌いだった。(フィリス・ゴットリーブ『オー・マスター・キャリバン!』1、藤井かよ訳) ウサギに見られるのをジャニスは恥ずかしがった。(ジョン・アップダイク『走れウサギ』上、宮本陽吉訳) トレーが眼鏡をはずしてわたしを見つめる。その顔は少年のように無防備で、頬には愛する者にしか感じ取れない柔らかさがある。(ダン・シモンズ『バンコクに死す』嶋田洋一訳) マキャフリイの容貌は、何百万の人間と同じ。目を離したら、雲の様子を正確に形容できないのと同じように、その容貌も形容できない。(ジャック・ウォマック『ヒーザーン』2、黒丸 尚訳) 「上には何があるの?」とプティト・クロワは訊ねる(ル・クレジオ『空の民』豊崎光一・佐藤領時訳) 二階のベッドルームには、いつもスーザンがたくさんいる。みんな、自分が熟してくるとここで待つのだ。(ケリー・リンク『しばしの沈黙』柴田元幸訳) この花たちはみんな君のためのものなんだよ、プティト・クロワ。(ル・クレジオ『空の民』豊崎光一・佐藤領時訳) それはまちがいよ、エンリコ。人間的な問題に関するときにはいつもあなたはまちがうけれど。(ピエール・プール『E=mc2』大久保和郎訳) ダニエルはかつてこれほど多くの白さを見たことはなかった。(ル・クレジオ『海を見たことがなかった少年』豊崎光一訳) 隣では、わたしの少年の愛人であるセヴェリアンが、若者らしい気楽な寝息を立てて眠っていた。(ジーン・ウルフ『調停者の鉤爪』18、岡部宏之訳) 小人は片腕をあげるとパリダに向かって伸ばす。(フエンテス『脱皮』第三部、内田吉彦訳) 「ねえエレーン、ぼくらはいま、いくつくらいなんだろう」(F・M・バズビイ『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』室住信子訳) クリスティーンはいま、自分が予想のつきやすい女だと思われているのではないか、と不安を覚えていた。(アン・ビーティ『アマルフィにて』亀井よし子訳) 「すてきな名前ね」ジェーンはいった。「どうしてその名前に決めたの?」(フリーマントル『フリーマントルの恐怖劇場』第2話、山田順子訳) ジョナサンとルーシーは、ある日、地下鉄の中で知りあったのだった。たまたま、とんでもない奴が、ただ退屈だという理由で、催涙弾を電車の中で放った。(ベルナール・ウェルベル『蟻』第1部、小中陽太郎・森山 隆訳) 「行かなきゃ」とアリスが言った。(コニー・ウィリス『リメイク』大森 望訳) 「なにもそんなに急ぐことはなかろう」とマークハイムはやり返した。(ロバート・ルイス・スティーヴンソン『マークハイム』龍口直太郎訳) 「菓子パンをもう一つお食べよ」クラウドがアリスに言った。(ジョン・クロウリー『リトル、ビッグ』I・[2]・III、鈴木克昌訳) 翌日は、アブナー・マーシュにとって人生でもっとも長い一日だった。(ジョージ・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』11、増田まもる訳) 「ああ、だがほんの一瞬だった」カドフェルは慎重に答えた。(エリス・ピーターズ『悪魔の見習い修道士』2、大出 健訳) ドライズデールは美しい女性と一緒のところを人に見られるのが好きだった。(P・D・ジェイムズ『正義』第一部・10、青木久恵訳) 人間がつき合わなければいけない相手の大半は変人なんだよ、とグランディソンは言い切っていた。(トマス・M・ディッシュ『歌の翼に』6、友枝康子訳) 「まあ、あなた」とマグダレンは溜息をついた。(エリス・ピーターズ『死者の身代金』8、岡本浜江訳) グルローズは、わたしの知った最も複雑な人間の一人だった。なぜなら、彼は単純になろうと努力している複雑な人だったから。(ジーン・ウルフ『拷問者の影』7、岡部宏之訳) レサマが話をする、するとその話を聞いていた者は、好むと好まざるにかかわらず、すっかり人が変わってしまった。(レイナルド・アレナス『夜になるまえに』レサマ=リマ、安藤哲行訳) 「クレティアン伯は過去の君とは別れたよ」ロレーヌが言った。「現在の君とももうじき別れる。そして今は未来の君の寸前で踏みとどまっている」(ヴォンダ・N・マッキンタイア『太陽の王と月の妖獣』上・12、幹 遙子訳) ヴァージニアがゆっくりといった。「古い諺があるのよ。当たり前の人間は友人を選ぶが、天才は敵を選ぶ」(グレゴリイ・ベンフォード&デイヴィッド・ブリン『彗星の核へ』上・第一部、山高 昭訳) ぼくは幸福だ。わかるだろう、ガーニイ? ナムリ? 人生に謎などまったくないんだ。(フランク・ハーバート『デューン 砂丘の子供たち』第2巻、矢野 徹訳) 「生き方を知る人間は、ただ生きるもんだよ、ニコバー。知らん人間が定義したがるのさ」(マイク・レズニック『ソウルイーターを追え』7、黒丸 尚訳) 人生を使うんだ、ハロルド。人生中毒になれ。(ハーヴェイ・ジェイコブズ『グラッグの卵』浅倉久志訳) 「まず生きていくことさ」シャープはそっけなく言った。(フィリップ・K・ディック『想起装置』友枝康子訳) クレヴェルは不審のおももちだが、ぼくには彼の気持がわかる。(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・21、土岐恒二訳) こんなふうに考えてみたらどうだろう、マーサ。(ブライアン・オールディス『子供の消えた惑星』2、深町真理子訳) チャーリー・ジョーンズが卒倒したのは、何も乙女めいた慎みからではなかった。どんなことだって卒倒する原因になりうるのだ。(シオドア・スタージョン『ヴィーナス・プラスX』大久保 譲訳) 彼はバッリにもアンジョリーナにも嘘をついていなかった。(イタロ・ズヴェーヴォ『トリエステの謝肉祭』3、堤 康徳訳) モネオは、何かをつかみそこねたことを悟った。(フランク・ハーバート『デューン 砂漠の神皇帝』第1巻、矢野 徹訳) きみはフームを愛する。そしてフームを愛しているから、きみの一部はフームになる。きみを知る者たちもまた、その一部はフームになる。(オースン・スコット『神の熱い眠り』9、大森 望訳) イノックは首を振った。それは気違いじみた考えだ。(クリフォード・D・シマック『中継ステーション』19、船戸牧子訳) スティーヴは肩をすくめたが、その動作は厚いコートとたくさんの下着の下に隠れて、ほとんど見えなかった。(ハリイ・ハリスン『人間がいっぱい』第二部・13、浅倉久志訳) スティーヴの説明によると、潜在意識は脳の一つの機能であり、一つの状態であって、決してただの一部分ではないという。(ピーター・フィリップス『夢は神聖』浅倉久志訳) 「貫通するものは一なり。」と芭蕉は言つた。(川端康成『日本美の展開』) ソレルはおし黙っていた。それはなにもいわないのとはちがう。(テリー・ビッスン『冥界飛行士』中村 融訳) マルティンはナイフを広げた、そして、いまではもう遠い昔のことのように思えるあのころのことに思いをはせた。(サバト『英雄たちと墓』第I部・20、安藤哲行訳) ガーセンは、語られたことよりも語られなかったことから相手の真意を察して、立ち上がると、いとまを告げた。(ジャック・ヴァンス『殺戮機械』5、浅倉久志訳) フォン・レイは輝く山なみにむかって、あごをしゃくった。(サミュエル・R・ディレイニー『ノヴァ』2、伊藤典夫訳) サージアス、人間は自分の生活をいったいどうするんだろう?(ノーマン・メイラー『鹿の園』第六部・28、山西英一訳) スパナーは手をさしだしたりはしなかった。もし彼女が手を出しても、わたしはその手をとっただろうか。(ニコラス・グリフィス『スロー・リバー』7、幹 遙子訳) アンは足もとの床の小さな円を見つめた。(デイヴィッド・マルセク『ウェディング・アルバム』浅倉久志訳) カーニーが見ると、白猫はそのほっそりした小さな気むずかしい顔を彼のほうに向けた。(M・ジョン・ハリスン『ライト』22、小野田和子訳) クレート叔父はテーブル、コップ、瓶、溲瓶、窓枠をスティックで軽くたたきながら、“ジャズ・バンド”を弾く、それぞれの物はその音を持つ、(カミロ・ホセ・セラ『二人の死者のためのマズルカ』有本紀明訳) エリーズの肉体のなまめかしさについては言うべきことがたくさんあったが、その精神については言うべきことはほとんどなかった。(ロバート・シルヴァーバーグ『いばらの旅路』28、三田村 裕訳) じっと彼女を観察していたカレルは、やがて突然、エヴァが本当にノラに似ているような気がしてきた。(ミラン・クンデラ『笑と忘却の書』第二部・11、西永良成訳) アドリエンヌと長く話しあうほど、ふたりの気持ちはどんどん離れていく。(フレッド・セイバーヘーゲン『ゲーム』浅倉久志訳) スーザンはそういう人間だよ。過去に生きない。(ケリー・リンク『しばしの沈黙』柴田元幸訳) 自分の心に特別の存在として映った女と、これほど多くの女が似ていることに、ギャロッドは鈍い驚きを覚えた。(ボブ・ショウ『去りにし日々、今ひとたびの幻』4、蒼馬一彰訳) オラシオは間違っていない。(コルターサル『石蹴り遊び』その他もろもろの側から・133、土岐恒二訳) そもそもどんな分野であれ、決定的な貢献ができる人の数など、ほんの僅(わず)かなんです、とバンクスは語った。(ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』第一部・4、御輿哲也訳) フォックスが何か音を立てる。痛みに彩られた、ドスンというような音。(ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』柴田元幸訳) アーテリアは肩をすくめた。(ニーヴン&パーネル&フリン『天使墜落』13、浅井 修訳) ぼくが見るレイミアの夢は、レイミアの見る夢とまじりあっている。(ダン・シモンズ『ハイペリオンの没落』上・第一部・3、酒井昭伸訳) レイグルの幻覚はぼくの経験とどこかで同調している。(フィリップ・K・ディック『時は乱れて』6、山田和子訳) ベンは退屈している。そういうとき、彼は人を挑発する。(アン・ビーティ『グレニッチ・タイム』亀井よし子訳) ハヴァバッドは手帳につぎのように書きこんだ──「スカヴァロの件で昼食、二十八ドル四十セント」。(アン・ビーティ『ウィルの肖像』ジョディ・9、亀井よし子訳) エヴェリンは、魅入られたもののように、かれのうえに身をかがめた。(シオドア・スタージョン『人間以上』第一章、矢野 徹訳) ダニエルは自分の一生を一行ごとに翻訳したものを与えられたような気がした。(トマス・M・ディッシュ『歌の翼に』18、友枝康子訳) ラムジー夫人はそれらを巧みに結び合わせてみせた、まるで「人生がここで立ち止まりますように」とでもいうように。(ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』第三部・3、御輿哲也訳) 「これが人生ってものよ」とジェロメットがいう。「少しずつ物事を発見していくの」(クロード・クロッツ『ひまつぶし』第五章、村上香住子訳) 「何だって? 何と言ったの?」彼は目を眇(すが)めるようにしてジャネットを見ました。(ジョアナ・ラス『フィーメール・マン』第三部・II、友枝康子訳) 「おそろしい気がするのよ!」とケイトは言った。真実を語っていたのだった。(D・H・ロレンス『翼ある蛇』上・7、宮西豊逸訳) 「うん」と信行はうなずいた。(志賀直哉『暗夜行路』第一・十二) かれは、それがアイダホの考えの中に形をなしていくのを見ることができた。(フランク・ハーバート『デューン 砂漠の神皇帝』第2巻、矢野 徹訳) パパジアンはなにも知らずに通りを歩いていった。なにも知らないことを心から楽しんでいた。(ロバート・シェクリー『トリップアウト』4、酒匂真理子訳) いまのチョークの決意や行動を左右するのは、もっとほかのもの、もっと精神的なものだった。(ロバート・シルヴァーバーグ『いばらの旅路』9、三田村 裕訳) スダミの手。それがクリスにつきまとう問題だった。(シオドア・スタージョン『閉所愛好症』大森 望訳) どうしたの、マルセル?(ケッセル『昼顔』九、堀口大學訳) ──上の人また叩いたわ──とバブズが言った。(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・28、土岐恒二訳) そのとたん、キルマンのことが急に心に浮かんできた。仇敵キルマン。(ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』丹治 愛訳) デ・ゼッサントは、読みさしの四折判本をテーブルの上に置き、伸びをして、煙草に火をつけた。(J・K・ユイスマンス『さかしま』第六章、澁澤龍彦訳) それから何が起こったか正確に描写することはできないが、数分間は極めて活劇的だった。シリルのほうから子供に飛びかかったようだ。空気は腕や足やその他で充満していた。(P・G・ウッドハウス『ジーヴズと駆け出し俳優』岩永正勝・小山太一訳) ルイスは独りでいると驚くほど熱心に物を見て僕たちよりも長く残るかもしれないいくつかの言葉を書く。(ヴァジニア・ウルフ『波』鈴木幸夫訳) エリザベスは、一年に一日しか休みをとれない、貧しい召使いの少女をうたったロバート・ブラウニングの詩のタイトルを思い出そうとした。(アン・ビーティ『蜂蜜』亀井よし子訳) 「物事は明るい面を見なくちゃいけない」とルーク氏は言った。「みんな優秀な番犬になるだろう」(ケリー・リンク『黒犬の背に水』金子ゆき子訳) アリス、いまよ! 青春なんて束の間よ、束の間なのよ。(ウォルター・デ・ラ・メア『シートンのおばさん』大西尹明訳) ブリケル夫人の恋は失敗に終わった。夫人の反論がないのをいいことに、彼はいいつのった。自分と妻のあいだでは、何ごとも気軽に打ち明け合う、と。(アン・ビーティ『貯水池に風が吹く日』6、亀井よし子訳) しかしな、マーティン、向こうへ帰ったら、きみのいる世界にもメリーゴーラウンドやバンド・コンサートや、それに夏の夜があるということが、きみにもわかると思うよ。(ロッド・サーリング『歩いて行ける距離』矢野浩三郎訳) ジョンはゆっくりとキスをしたので、そのことをクレアが考え、受け入れて、その意味を知るには充分な時間があった。(グリゴリイ・ベンフォード『時の迷宮』上・第四部・4、山高 昭訳) サマンサは分数から野生の馬の群れを連想する。(ケリー・リンク『スペシャリストの帽子』金子ゆき子訳) 彼は指を突き出して、宙に小数点を書いた。でも、ラルフ・サンプソンはその点にさわれる。彼がさわると、点がバスケットボールに変わる。(アン・ビーティ『貯水池に風が吹く日』7、亀井よし子訳) アーテリアは肩をすくめた。わかったわ、頭とりゲームをやりましょう。最初はあなたがわたしの頭をドリブルして床を走りまわる。そのつぎに、わたしがあなたの頭をドリブルする。(ニーヴン&パーネル&フリン『天使墜落』13、浅井 修訳) かつてトイスは、「この世をふり向けば疑問にぶつかる。答えは全部どこかに隠れているのよ」と言ったが、まさにそのとおりだった。(フィリップ・ホセ・ファーマー『気まぐれな仮面』30、宇佐川晶子訳) エドガー・ポウについて、他のすべてを忘れたとしても、あの瞳の印象を捨て去ることはあるまい。ポウの瞳は外を見ているばかりでなく、内も見ているようだ(ルーディ・ラッカー『空洞地球』4、黒丸 尚訳) サビーヌ、ぼくは探究だとか判断だとか知性だとかいうものに、信頼をおかないんだ。(シャルル・プリニエ『醜女の日記』一九三七年一月二十四日、関 義訳) 「あのねえ」とマイロ。「何も考えずに始めたはいいけど、知らないうちにそれに足をすくわれて身動きがとれなくなってるということだってあるんだぞ」(アン・ビーティ『シンデレラ・ワルツ』亀井よし子訳) 「プランタジネット」ジェレミーは言う。「それも実在の場所だよ。(…)」(ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』柴田元幸訳) ルーシーにいうつもりはなかったが、ルーシーにあってじぶんにはない資質がなにか、最近分かってきたような気がしていた。(アン・ビーティ『愛している』16、青山 南訳) 彼女の身体を持ち上げて頭の上でぐるぐる回してやると、嬉しそうにきゃっきゃっ声をあげて笑っていたアミラミア。彼女はきっとゆっくり回転しながら、べつの角度から世界を見渡していたのだろう。(コルタサル『女王人形』木村榮一訳) ペドロは、彼女は頭がおかしいと言う気になれなかった。事実おかしかったからだ。(ブライス=エチェニケ『幾たびもペドロ』2、野谷文昭訳) 地下鉄とは人類の倒錯(とうさく)であり、ジューブにはどうしても馴(な)れることができない。(ジョージ・R・R・マーティン『ワイルド・カード 2 宇宙生命襲来』下・ジューブ 6、堺 三保訳) 彼はベンチから立ちあがり、ゆっくりと遊歩道を歩いていった。あと少ししたら、ヒューバートが朝食のしたくをしているあの続き部屋に戻ることになる。(クリフォード・D・シマック『法王計画』11、美濃 透訳) けれども彼女が出ていき、裏口のドアがバタンと音をたててしまったとき、ウィリアムは刺すような悲しみが胸をよぎるのを感じた。(トマス・M・ディッシュ『M・D』上・第三部・32、松本剛史訳) 私、ジェラールが好きでも何でもないんですもの。好きになったことは一度もないの。彼のことがほしくてほしくて仕方がない時でも。それがセックスの恐ろしいところだわ。(P・D・ジェイムズ『原罪』第一章・5、青木久恵訳) パウトは苦痛を与えるのが好きだった。(バリントン・J・ベイリー『禅〈ゼン・ガン〉銃』5、酒井昭伸訳) レキシントンへの道中は若いペイ中に変装して移動しなきゃならなかった──ビルとジョニーって名前に決めたんだが、これがしょっちゅう入れ替わってある日は目をさますとビルで次の日はジョニーって具合──(W・バロウズ『ソフトマシーン』1、山形浩生・柳下毅一郎訳) ああ、ライサ! 恋人の顔をじっと見つめるとね、《何か》がくずれて、そして、《現世》では、もう二度と同じ人は見つからないことがわかるのよ! (ゼナ・ヘンダースン『血は異ならず』大洪水、宇佐川晶子訳) ジョニーはレコーディング・ルームで靴を脱いだが、あれは頭がおかしくなっていたからではない。昨日、そのことを話してくれたマルセルとアートには、それが分かっていない。(コルタサル『追い求める男』木村榮一訳) ケイトが言った。「頸動脈がきれいに切断されています。意外と手に力があったんですね。特に強そうには見えませんが、でも手というのは弱々しく見えるものですよね」(P・D・ジェイムズ『正義』第三部・32、青木久恵訳) 「だれだってみんな死ぬんだ」トゥールは低い声でいった。「ちがうのは死に方だけさ」(パオロ・バチガルピ『シップブレイカー』14、田中一江訳) ミリアムのウェディングドレスは、溺れた飛行機の霊魂のようだった。(J・G・バラード『夢幻会社』26、増田まもる訳) ブライアが目の前の光景を表現する言葉を十個選べといわれたら、“きれい”はその中に入らなかっただろう。(シェリー・プリースト『ボーンシェイカー』20、市田 泉訳) カルソープは、その光景ばかりでなく、それが持つ意味に気分が悪くなって、顔をそむけた。(フィリップ・ホセ・ファーマー『太陽神降臨』3、山高 昭訳) 「ああ、グローリィ!」わたしは首をまわして彼女の手に頬を押しつけた。(ゼナ・ヘンダースン『血は異ならず』帰郷、宇佐川晶子訳) スワミはしばらくそれをつづけた。観客は陶然として身を乗りだしていた。(マーク・クリフトン『思考と離れた感覚』井上一夫訳) アンのブルーの目には魅了され、叱責し、崇拝する感情が同居している。こんな組みあわせを同時に抱くには若さが必要だな、とバザルカンはふと考えた。(ナンシー・クレス『プロバビリティ・ムーン』23、金子 司訳) あなたがどんな質問をなさるか分かりますよ。ルーシーとの関係は性的な関係だったのか。私にはそんなことを考えるだけでも冒瀆だとしか答えようがありません。(P・D・ジェイムズ『秘密』第三部・4、青木久恵訳) 時としてほんとうに伝えたいことは言葉で言い表わすことはできない、ジャンヌはこれまでそう信じてきた。(コルタサル『すべての火は火』木村榮一訳) ジョンは芝居の批評を続けた。かれはそれまでより突っこんだ見方をしているように、わたしには思われた。(オラフ・ステープルドン『オッド・ジョン』13・ジョン、同種族を探す、矢野 徹訳) チーチャンズは犬だし、したがって細君よりは高等な動物である。ぼくは、ストリックランドが鞭でひっぱたくものと予想して、彼の顔を見た。(R・キップリング『イムレイの帰還』橋本福夫訳) 「いまでも聞える」プニンは塩か胡椒の容器を手に取りながら、記憶の持続性に驚いて軽く頭を振った、「いまでも聞えるよ、命中して木魂が空に舞いあがったときのパシッという音がね。肉を食べないの? 好きじゃない?」(ウラジーミル・ナボコフ『プニン』第四章・8、大橋吉之輔訳) ブルーノは答えた、人間というものを云々するとき、真実が語られることは滅多にない、なぜなら、苦痛や悲しみ、そして破壊をもたらすだけだからね。(サバト『英雄たちと墓』第II部・8、安藤哲行訳) そうだ、あんただって細部のひとつなんだよ、ロードストラム。もし一瞬でもあんたが俺の心の中になかったら、あんたはいなくなっちまう。(R・A・ラファティ『宇宙舟歌』第四章、柳下毅一郎訳) 「本名でいきますよ」セランはいつもそう答えるのだが、これがまちがいだった。ときには、新しい名が新しい性格をひきだすこともある。(R・A・ラファティ『九百人のお祖母さん』浅倉久志訳) 「ミケランジェロが」とジョンはいった。「どういうわけか吸える空気はぜんぶ吸ってしまったようですね。(…)」(アントニイ・バージェス『アバ、アバ』4、大社淑子訳) パリーモン師はかつて、わたしに教えてくれた。恩情はわれわれ人間のものであり、一引く一は零より多いと(ジーン・ウルフ『拷問者の影』30、岡部宏之訳) ヒラルムは無言だった。(テッド・チャン『バビロンの塔』浅倉久志訳) ラッセルはその半分もわかっていなかった。(ジョー・ホールドマン『擬態』37、金子 司訳) そしてボースンゲイト氏は判事がふたたび一連の意見をのべているな、と思った(ジョン・ゴールズワージー『陪審員』龍口直太郎訳) 「ラーキンはこの本に、詩想と作品の断片は必ず同時に浮かんでくるものだと書いています。あなたも同じご意見ですか、警視長さん」(P・D・ジェイムズ『死の味』第二部・1、青木久恵訳) ゴードンは驚いたように首をふった。(ニーヴン&パーネル&フリン『天使墜落』下・15、浅井 修訳) ベンジャミンもそこに加わった。(デイヴィッド・マルセク『ウェディング・アルバム』浅倉久志訳) 「同時にふたつの場所にいることができるものかしら?」アリスはじっくり考えました。(ジェフ・ヌーン『未来少女アリス』風間賢二訳) おそらく、エルザンはいまそれらの頁のことを考えていないだろうし、それらの頁を書いたとき以来、それについて考えたことは一度もなかっただろう。(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』12、菅野昭正訳) 「明りはここに残してゆきましょう」サラがささやいた。「あなたがいなくても光ったままでいるんでしょう?」(ゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』ヨルダン、深町真理子訳) 「ドクター・ミンネリヒトは明かりに目がないのさ。明かりそのものも好きだし、明かりを生み出すものも好きなんだよ。(…)」(シェリー・プリースト『ボーンシェイカー』21、市田 泉訳) エレナはいたずらっぽい口調で、「たぶん、それについてもあなたが正しいんでしょうね」(イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア『彼らの生涯の最愛の時』大森 望訳) 「ネッリーは他の誰も見ないようなものを、あたしに見てるんじゃないのかなあ」(カミラ・レックバリ『氷姫』V、原邦史朗訳) スタークは頭をめぐらし、ミリアム・セントクラウドをじっとみつめた。(J・G・バラード『夢幻社会』32、増田まもる訳) 自分自身のことはなにも思い出さずに、ミュリジーに抱いていた関心を徐々に思い出した。(クリストファー・プリースト『ディスチャージ』古沢嘉通訳) マークは、過去を理解せずして現在を理解することはできないから歴史の研究を選んだと言っていましたよ。(P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』3、小泉喜美子訳) ジェミーは言った。「残酷な時代を思いだすのを拒めば、悪と共存する善の記憶をも同時に拒否することになる」(ゼナ・ヘンダースン『血は異ならず』大洪水、宇佐川晶子訳) レサマは「覚えておくんだよ、わたしたちは言葉によってしか救われないってこと。書くんだ」とぼくに言った。(レイナルド・アレナス『夜になるまえに』通りで、安藤哲行訳) わたしはグレイダスに以前会ったことがあるのだろうか? ちょっと考えさせてくれ。会ったことがあるのだろうか? 記憶は頭(かぶり)を振る。(ナボコフ『青白い炎』註釈、富士川義之訳) 見るともなしにグリフィスを見ながら、何とか記憶を取り戻そうとした。(マイケル・マーシャル・スミス『ワン・オヴ・アス』第2部・14、嶋田洋一訳) 記憶がよみがえってきた。そうだ、この記憶だったんだ。あの子は、パメラの先触れだったのだろうか?(アントニイ・バージェス『ビアドのローマの女たち』2、大社淑子訳) ヌートがまだ生きているということに、クリフはもはやまったく疑いを抱いてはいなかった。「生きている」という言葉が何を意味しているとしても。(ハリイ・ベイツ『主人への決別』6、中村 融訳) いったいスサナ・サン・フアンはどういう世界に住んでいたのか、これはペドロ・パラモがついに知ることのできなかったことのひとつだ。(フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』杉山 晃・増田義郎訳) それをぼくが考えたこともなかったなんて思わないで欲しいね──とオリベイラが言った──。(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・28、土岐恒二訳) ラングは水の栓を開閉して、そのつどかすかにかわる音に耳をすました。(J・G・バラード『ハイ-ライズ』16、村上博基訳) それはスケイスに何も語らなかった。(P・D・ジェイムズ『罪なき血』第二部・1、青木久恵訳) しかし、カレルは、エヴァを通して美しいノラ夫人を時間をかけてゆっくり見ていたかったので、その瞬間を引き延ばそうとした。(ミラン・クンデラ『笑と忘却の書』第二部・11、西永良成訳) トゥカラミンの口調にある何かが、クゥアートに質問させた。(グレゴリイ・ベンフォード『光の潮流』下・第五部・2、山高 昭訳) 「その定義を認めるとすると」とサン=ジュリューが言った、「実現された行為は恋愛を排除しませんか?」(アルフレッド・ジャリ『超男性』I、澁澤龍彦訳) 僕はなにもしませんでしたよ、イレーヌは僕になにも言いませんでした。なにもかも察しなければならなかったんですよ、いつでもね……(ガデンヌ『スヘヴェニンゲンの浜辺』16、菅野昭正訳) ドク・ポルの話だと、複合感覚は人間には非常によく見られるものなんだそうです──一般に考えられているよりも、ずっと多いんですって。(ドナルド・モフィット『第二創世記』第二部・9、小野田和子訳) 自己は消滅しても、このロンドンの街路で、事物の満(みち)干(ひ)のままに、ここに、かしこに、わたしが生き残り、ピーターが生き残り、お互いの胸のうちに生きる、と信ずることが。(ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』富田 彬訳) 野蛮人なんてものはいないんだよ、フィル。あるのは野蛮な行為だけなんだ(ポール・プロイス『地獄の門』24、小隅 黎・久志本克己訳) クレアは髪の毛をゆすると、前へ全部たらし、それから息をのむほどすてきに、うしろへさっと投げた。(シオドア・スタージョン『神々の相克』村上実子訳) レジナルド卿は、精いっぱい抵抗するものの、銃口がまっすぐ自分を狙っているのに気づいた。まるで、スローモーションの映画を見てでもいるように、奇妙なくらい鮮明にすべてを見ることができ、感じることができた。(テレンス・ディックス『ダレク族の逆襲!』2、関口幸男訳) ヴィクターは薔薇のとげに親指をふれた。「女ってやつは。男は自由でいいっていいやがる。で、女に自由を与えると、むこうはそれをほしがらない」(ジョン・クロウリー『ノヴェルティ』6、浅倉久志訳) フィオナは首を振りながら反対意見をのべた。(ジョン・ブラナー『地獄の悪魔』村上実子訳) モニは、相手のことばをさえぎった。(テレンス・ディックス『ダレク族の逆襲!』1、関口幸男訳) ベンウェイは学生で一杯の大講義室で手術をしている──(ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』病院、鮎川信夫訳) 「帝王(スルタン)は壮大な夢をお持ちだ」ルビンシュタインが言った。「だが、あらゆる夢はもしかしたら、さらに大きな夢の一部であるのかもわからん」(ドナルド・モフィット『星々の教主』下・16、冬川 亘訳) 「それは循環論法的なパラドックスですか? 大半の真理は循環パラドックスでしか表現されえない、とドン・クリスタンが言ってます」(オースン・スコット・カード『死者の代弁者』下・18、塚本淳二訳) 「何だって?」とヴォマクト。その目──その恐ろしい目!──は、いうまいと思ったことまでいわせてしまう。(コードウェイナー・スミス『酔いどれ船』伊藤典夫訳) 最近妻を亡くしたばかりの植物学者のベルクと──自分のよりも、むしろ相手のミスに腹を立てながら──チェスをした。(ナボコフ『賜物』第2章、沼野充義訳) ジェラルド・エメラルドは片手を差し伸ばしていた──こうしていま書いている瞬間にもそれは依然としてその位置のままにあるのだ。(ナボコフ『青白い炎』註釈、富士川義之訳) ミンゴラはそのわきに坐ってライフルの掃除をしながら、これからの日々のことを思っていた。(ルーシャス・シェパード『戦時生活』第三部・11、小川 隆訳) アンドロイドは再びまたたきし、桃色の唇の両端をひげに引きつけると、めったにお目にかかれないダールグレンの微笑のかたちになった。(フィリス・ゴットリーブ『オー・マスター・キャリバン!』2、藤井かよ訳) エンリはベク・アレンのこうした非現実な行為を見る機会が前にもあった。(ナンシー・クレス『プロバビリティ・ムーン』24、金子 司訳) 「古代の神々を呼びもどそうとしていらっしゃるんですか?」とケイトはあいまいな調子で言った。(D・H・ロレンス『翼ある蛇』上・10、宮西豊逸訳) K・Cの行く手には栄光が待っている。彼はそれをまさしく歯の詰め物にも感じていた。(トマス・M・ディッシュ『第一回パフォーマンス芸術祭、於スローターロック戦場跡』若島 正訳) いつかきみのいわゆる中心的姿勢とやらについて、もっと詳しい議論を聞きたいもんだ──とエチエンヌが言って立ち上がった──。(コルターサル『石蹴り遊び』向う側から・28、土岐恒二訳) アリスがいう、何を愛しているの。(グレゴリイ・ベンフォード『ミー/デイズ』大野万紀訳) 医者がピギーにコーヒーを渡した。(アン・ビーティ『愛している』20、青山 南訳) フィリッパはモーリスの少しもうろたえない皮肉っぽい視線をなかば意識して戸口に立っていた。(P・D・ジェイムズ『罪なき血』第三部・8、青木久恵訳) 名前はなんて言うんだろう。アルタグラシア・モラレス夫人? それともアマンティーナ・フィゲロア夫人? それともフィロミーナ・メルカド夫人? そういう名前をおれはこよなく愛している。それは一つの純粋な詩なのだ。(ロバート・シルヴァーバーグ『内死』1、中村保男・大谷豪見訳) カティンのやつ、あいつは過去しか眼中にないんだ。そりゃ、過去は、今が明日をつくるみたいに今をつくったものだし、キャプテン、まわりじゃ河がごうごうと流れてんだぜ。(サミュエル・R・ディレイニー『ノヴァ』2、伊藤典夫訳) メリックはこの場所に生気を吹きこんでいるのはふたりの心臓の鼓動なのであり、ふたりがいなくなるとすぐに、滝の流れは止まりツバメも姿を消すのではないかと考えることがあった。(ルーシャス・シェパード『竜のグリオールに絵を描いた男』2、内田昌之訳) ホリー独特のものの考え方は、チェスターの話の中に無意識のうちに入りこんでいる。(アン・ビーティ『コニーアイランド』道下匡子訳) それわたしのよ──とラ・マーガは言って、それを取り返そうとした。(コルターサル『石蹴り遊び』その他もろもろの側から・108、土岐恒二訳) よく引用されるバークリーのことばに、「存在するということは、知覚されること」ということばがある。(ジョン・T・ウィリアムズ『プーさんの哲学』4、小田島雄志・小田島則子訳) そしてフィリッパは母にキスをした。何もかも簡単だった。すばらしく簡単だった。愛することを怖れる必要はないとわかるまで、どうしてこんなに時間がかかったのだろう。(P・D・ジェイムズ『罪なき血』第三部・7、青木久恵訳) それが彼の心を期待でいっぱいにした。なんについての期待か?──それは彼にも確かではなかった。フリーマンはなおも自分のもたぬものに憧(あこが)れている人間なのだ(マラマッド『湖上の貴婦人』加島祥造訳) デイヴィッドには、大人たちがどうして顔と心で別々のことを言うのかさっぱり理解できなかったが、そんなことはもう馴れっこだった。(ロバート・シルヴァーバーグ『内死』2、中村保男・大谷豪見訳) しかし、霧が晴れるにつれてさらに輝きを増した一対の窓の黄色い灯は、ダルグリッシュをヒューソン夫妻のカテージへと引き寄せた。(P・D・ジェイムズ『わが職業は死』第三部・1、青木久恵訳) ムアドディブはすべての経験にそれ自体の教えがあることを知っていたのだ。(フランク・ハーバート『デューン 砂の惑星』第1巻、矢野 徹訳) 「二つの世界に住む人は誰でも」ヴィットリアは言った。「複雑な生活を余儀なくされるのよ」(ジョアナ・ラス『フィーメール・マン』第五部・Ⅺ、友枝康子訳) ガーニイはいつも、ぴったりとくる引用をしましたね。(フランク・ハーバート『デューン 砂の惑星』第3巻、矢野 徹訳) 食事の間中、レイは自分のことばかり話していた──配役、批評、敵に勝つ喜び。ダニエルはこの人物の抱く、虚栄心と飽くことのない賞讃への渇望をはじめて目のあたりにした。(トマス・M・ディッシュ『歌の翼に』14、友枝康子訳) だが、あのジョニーからあふれ出しているものは美しい、恐ろしいほど美しい。(コルタサル『追い求める男』木村榮一訳) マーサはいつもそれを、カウリーでの日々の不安と焦燥がそれを記憶に焼きつけてしまい、そのため思いだすことがたやすいのだというふうに考えるのだった。(ブライアン・オールディス『子供の消えた惑星』2、深町真理子訳) フィンガルは心配なんかしていなかった。ただくたびれて神経がピリピリしているだけだった。(ジョン・ヴァーリイ『汝、コンピューターの夢』小隅 黎訳) ホッブスが何度もくりかえし強調したことと言えば、明晰な定義は幾何学にだけじゃなくて明晰な思考にも肝心なものだということだ。(ジョン・T・ウィリアムズ『プーさんの哲学』3、小田島雄志・小田島則子訳) ガウスゴーフェルは一目でチェルパスを憎んだ。──憎しみは、ときには恋とおなじほど自然で奇跡的なものなのである。(コードウェイナー・スミス『夢幻世界へ』伊藤典夫訳) ヒューゴは“チーズ”という言葉を知っている。自分の名と同じくらいよく知っている。ある種の言葉を聞くと目をぱっと輝かせ、耳をぴんと立てる彼の仕草がわたしにはいとおしい。(アン・ビーティ『待つ』亀井よし子訳) こうしたすべて、そしてその千倍ほどの多くの事柄が、この啓示の瞬間にオバニオンの頭の中でくっきりと浮かび上がった。(シオドア・スタージョン『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』13、若島 正訳) タロス博士は観衆の想像力から多くのものを引き出した。(ジーン・ウルフ『拷問者の影』32、岡部宏之訳) 「あんたはもうちょっと空中浮揚を練習すべきだと思わないかい?」ロウの無言の問いが、がやがやいう話し声のかげから、ぴーんと明瞭に伝わってきた。(ゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』荒野、深町真理子訳) 〈あの子はこの先、どれだけ苦しむことになるのだろう〉と呟きながらも、ブルーノは優しげな眼で彼の後を追った。(サバト『英雄たちと墓』第II部・4、安藤哲行訳) 「ありがとう」とピギーはいった。ジェーンの亡霊がいわせたのだった。(アン・ビーティ『愛している』20、青山 南訳) ソーザが超能力のなんらかの証拠を見せるとき、かれは常にはっきりと異常なほどの関心を示すのだ。(マーガレット・セント・クレア『アルタイルから来たイルカ』10、矢野 徹訳) その物体が近づいてくるにつれ、まずキャリエルに、数ミリ秒遅れてケフにも、その物体の形がはっきりとわかるようになった。(マキャフリー&ナイ『魔法の船』5、嶋田洋一訳) 彼は雲をこんなに近くから見たことがなかった。ジョンは雲が好きだった。(ル・クレジオ『童児神の山』豊崎光一・佐藤領時訳) 「母か」エルグ・ダールグレンは何か不調和なものを見つけたように微笑した。(フィリス・ゴットリーブ『オー・マスター・キャリバン!』12、藤井かよ訳) 人生ってものはすばらしいものなんだよ、ケイト。一人っきりでは生きられないものなんだ、だれかほかの者と分けあうものなんだね。だから、相手の苦しみは自分の苦しみなのだよ。(ジョン・ゴールズワージー『陪審員』龍口直太郎訳) これこそ、ラルフ・ストレングだった。いま、ストレングはぼくたちにむかってにっこりと笑い、自信たっぷりなようすで、落ち着きはらって立ち去っていく。(マイケル・コニイ『ブロントメク!』2、遠山峻征訳) まるでシプリアーノはラモンの顔に、自分自身をさがしているかのようだった。(D・H・ロレンス『翼ある蛇』上・12、宮西豊逸訳) 一方、ドウェインの狂気はどんどん進行していた。ある晩、彼は新しいミルドレッド・バリー記念芸術センターの真上の空に、十一個の月を見た。(カート・ヴォネガット・ジュニア『チャンピオンたちの朝食』第4章、浅倉久志訳) 「アーヴァ夫人!」と彼は呼んだ。「あなたとお話がしたいのです!」(フィリップ・ホセ・ファーマー『太陽神降臨』12、山岸 真訳) 「エカテリーナ」とギュンターがやさしく呼びかけた。「どれだけ寝ていないんだい? 自分の胸にきいてごらん。自分じゃなくて覚醒剤に考えさせてしまっているよ」(マイクル・スワンウィック『グリュフォンの卵』小川 隆訳) マルティンは服を着終えたとき、《そう、それじゃ、一人にさせて》というアレハンドラのあの恐ろしい言葉を耳にしたミラドールでのあの夜明けをふたたび思いだしていた。(サバト「英雄たちと墓」第I部・20、安藤哲行訳) いくら積分社会数学にくわしくても、ヘアーの内部には分割がある。最古で最悪のパラドックスのように、そこには部分への分割がある。(ジョン・クロウリー『青衣』浅倉久志訳) 二人とも人の仕事を批評したり、他人の才能で肥え太ることしかできないものだから、モーリスが創作的な仕事をしているのが我慢ならなかったのよ。よくあることだわ。芸術に寄生する人たちの創作家に対する嫉妬。(P・D・ジェイムズ『不自然な死体』第三部・3、青木久恵訳) それでもおれは窓を降ろした。イーニアス・カオリンの庭園にただよう馨(かぐわ)しい香りを嗅ぐには、窓をあけるしかないからだ。(デイヴィッド・ブリン『キルン・ピープル』下・第四部・72、酒井昭伸訳) 「ほら、リーシャ──この木はこの花をつけてるだろ。そうできる(、、、)からだ。この木だけがこういうすてきな花をつけることができる。(ナンシー・クレス『ベガーズ・イン・スペイン』2、金子 司訳) デボラと庭を見れば、それが絶えざる(、、、、)創造であることは明らかだった。つまり、ぼくが言いたいのは、庭が毎日、毎時間、新しくなっていたということだ。(ミシェル・トゥルニエ『メテオール(気象)』第十六章、榊原晃三・南條郁子訳) 「ねえきみ、自分の感情を反映させてはいかんよ。わたしがマイロンをほめるときは、単に彼を(、、)ほめているのであって、別にきみをけなしているわけじゃないんだから」(ゴア・ヴィダール『マイラ』33、永井 淳訳) 「あたしはいまでもあなたの味方です」イネスは彼に近づいてそういった。恥ずかしがり屋の恋人がそっと近づいて、愛しているわ、というときのように。(アン・ビーティ『燃える家』亀井よし子訳) ラングには、彼女のばかげた気まぐれを満たしてやろうとするとき、彼女の饒舌な叱責がうれしかった。(J・G・バラード『ハイ-ライズ』16、村上博基訳) じつはね、とプールは彼女にいった。向こうの宇宙にはさらにゲートがあって、またべつの宇宙に続いている(スティーヴン・バクスター『虚空のリング』下・第五部・32、小木曽絢子訳) フォードはこぶしでコンソールを叩き、そのドンという音を聞いていた。「ゼイフォード、このドンという音を忘れてたよ。つまり、この音とかそういうことを。(オーエン・コルファ『新銀河ヒッチハイク・ガイド』第3章、安原和見訳) ジークは逃げ出しそうになったが、新たな音に注意を引かれた──(シェリー・プリースト『ボーンシェイカー』25、市田 泉訳) ロビンはますを眺めていた。(シオドア・スタージョン『[ウィジェット]と[ワジェット]とブフ』16、若島 正訳) なぜなら、ブルーノが言うように、精神の悲劇的な不安定さの一つは、また、その最も深みのある繊細さの一つは肉を通してでなければ現れないからだ。(サバト『英雄たちと墓』第I部・17、安藤哲行訳) ミリアムの手もとをのぞきこんで、彼女が半分をクレヨンで、半分を鉛筆でしあげている作品に驚嘆した(ゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』ヤコブのあつもの、深町真理子訳) とにかく行動することがラムジー夫人の本能だった(ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』第三部・11、御輿哲也訳) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年01月20日 10時07分09秒
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