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田崎正巳のモンゴル徒然日記

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2009.11.30
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カテゴリ:世界とモンゴル
中国との国境で、「税関」関係の仕事をしている人と話す機会がありました。地続きの国境は日本にはないので、ちょっと興味深いです。

まず場所ですが、中国との国境ですからウランバートルからは遠いです。彼女の職場はウランバートルから800km近くも離れたところだそうです。

そんなところに女性が行くの!と正直驚きました。彼女は政府関係ではなく、マイニングの会社に勤めており、税関の専門家として働いているのです。

私が以前行った南ゴビよりも更に南下した場所らしいです。ですから、当然何もないそうです。

そもそも国境付近には一般の人は住んでいないのです。一般の人(ここでは遊牧民のことです)が住んでいるのは国境から100km以上も離れたところだそうです。

「だったら、何もないところでしょ?どんなところに住んでいるのですか?」と聞いたら、ゲルキャンプのようなところだそうです。

国境を通る荷物を検査する人、透視カメラでチェックする人、税金の計算をする人(彼女はこの仕事です)、さらには麻薬を嗅ぎわける犬もいるそうです。そして、安全のためもあって軍人さんも近くにいるそうです。

「そんな男ばかりの職場に、女一人で行くのですか?」と聞いたら「いいえ、男女は大体半々です」と答えました。

確かに事務的な仕事には女性が多いのかもしれません。ゲルは全部で6つあり、一つのゲルに6人が寝起きするそうです。食事は専門の料理人が作ってくれます。家族持ちは、別にゲルがあるそうです。

「その税関は国境に近いの?」と聞くと「はい、当然です。近いというより、国境の上にあります」と言いました。

モンゴル人は中国へはビザ不要なので「じゃあ、時々中国側に散歩に行ったりするの?」と聞くと、笑って「そんなことをしたら、撃ち殺されます。」だって。

国境は幅400mほどの緩衝地帯があり、そこは立ち入り禁止になっています。そしてそこは徒歩通行(もちろん、馬に乗っても)は禁止されているのです。

国境を超える全ての人は、許可された車での通行しか認められていないのだそうです。だから、歩いている人は射殺されても仕方がないのです。

「そんなところにどのくらいいるの?」と聞いたら「3週間から1カ月」だそうです。そういう場所ですから、地元の人も全くいないそうで、全てウランバートルから派遣されて行ってる人です。家族連れで住んでいる人もおり、子供用の学校もあるそうです。

ですが、多くはウランバートルから交代で勤務しています。彼女は3週間現地へ行って、同じく3週間ほどウランバートルで仕事をするそうです。

さすがにそうしないと、もたないのでしょう。但し、当然ですが手当が大きいので、給料はかなり良いと言ってました。

休日は日曜日だけで、たまに許可を取って中国側に日帰り旅行をすることもあるそうです。「中国側は、結構な街になっているので、おいしいもの食べたり、物価が安いので買い物したりもします」と言ってました。

私が「確かに国境だから、警備が厳しいのは仕方ないけど、別にモンゴルに違法入国したがる人なんていないでしょうにね?」と聞くと、そうではないと言いました。

聞けば、中国にはかなりの人がモンゴル行きを夢見ている人がいるんだそうです。そういう人たちが、この400m幅の国境を渡って来るのだそうです。

「だって、中国の方が今はどんどん発展して豊かじゃない?」と聞くと「底辺の貧乏な人たちには、今の中国の発展は関係ないのです。他方、モンゴルのイメージは、食べ物が新鮮で、空気がおいしく、憧れているそうです」と言います。

更には「モンゴル人がアメリカに憧れて、アメリカに住んでみたいというのと同じように、中国人はモンゴルに憧れるのです。」とまで言います。

私は思わず「え?じゃあ、モンゴルがドリームランドってこと?何それ?本当に中国人がそう思っているの?それは信じられないな。」と言いました。

そして「もしかして、その中国人って、内モンゴルの人のこと?」というと「はい、そうです」と言いました。

なーんだ、内モンゴルにいるモンゴル民族の中国国籍の人か。だったら、わかりますね。チベットほどじゃないけど、モンゴル人だって中国では「少数民族」です。

だから、辛い思いは相当あるのでしょう。確かに中国内で「少数民族扱い」されるよりは、モンゴル人だけの国へ行きたいというのも頷けます。

以前にも、他のモンゴル人に聞きましたが、今もなお、中国領モンゴルである「内モンゴル」の人々は、モンゴル国との統合というか、帰属を望んでいる人が多いそうです。そりゃそうでしょうね。

もし、九州だけが中国領になってしまい、中国内での「日本民族という少数民族」扱いされ、言葉も文化も中華風に変えさせられたら、そりゃあ、日本国に戻りたいと思うでしょうね。

親戚がいるのに、多くは引き裂かれたままだそうです。確かに日本の学校では「北と南に分かれた朝鮮半島」や「台湾と大陸の2つの中国」などは勉強しましたが、モンゴルが引き裂かれている状態はほとんど教えてないように思えます。

モンゴル政府も、中国の強大さを前にしたら、何も言えないのです。なんせ食料や日用品などのほとんどは中国からの輸入ですから、下手な政治問題を起こして、ストップされては死活問題です。

そして、更に驚くべき話を聞きました。「内モンゴル人以外では、北朝鮮の人が国境を時々渡ってきます。」だそうです。

もちろん、上手くいかずに収監されるケースがほとんどだそうですが、多分、中にはモンゴルに潜り込んでいる人もいるでしょうと、言ってました。

彼女は背景はあまりわかっていないようでしたが、私なりに解釈すると、こうです。北朝鮮からの脱北者のほとんどは中国に入ります。以前は、そのまま東北部に住みついたようですが、昨今は中国政府の監視が厳しくなり、強制送還されることが多いそうです。

そうなると、中国に居続けるわけにはいないので、モンゴルへ逃げ込むのでしょう。モンゴルは北朝鮮との友好国という歴史がありますし、韓国人もたくさんいるので、潜り込みやすいのでしょう。ですが、聞いてぞっとする話もありました。

中国側で捕まった脱北者3人がロープにつながれたというのです。そのロープは、人間の鎖骨の下を通して(多分穴をあけるのでしょう)3人をつなげているというのです。

聞くだけで、おぞましいです。まあ、これが事実かどうかはわかりませんが、かなり手荒い扱いを受けるのも事実なのでしょう。

北朝鮮から中国、そしてモンゴルへと無事に渡り切った人たちはいいでしょうが、多分その途中で命を落としたり、ひどい目にあったりした人は相当数に上ると思われます。遠い言葉だった脱北者がなんだか急に現実的な存在に思えてきました。

毎日たくさん通るトラックを検査する税関、少数民族として圧政から逃れたい中国国籍のモンゴル人、そして北朝鮮人と、陸続きの国境には毎日いろんなことが起こっているのだろうと想像しました。やはり日本人には経験のない感覚です。





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Last updated  2009.12.01 09:19:32
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