モンゴルは7月30日現在で、オリンピックのメダル数は銀1、銅2の合計3個です。しかもこれはすべて柔道です。
柔道だけのメダル数でいうと、日本がダントツの合計11個、次はフランスの7個、次はジョージアの4個です。モンゴルはというと、韓国、ロシアとともに3個で第4位なのです。人口&スポーツ大国に並んで、人口わずか320万人のモンゴルのメダル獲得は素晴らしいです。
ちなみに、テレビで何度も日本人選手を苦しめたジョージアは人口372万人ですから、モンゴルとジョージアは未来の柔道大国になるかもしれません。人口比でいえば、この両国はすでに日本やフランスを追い越しています。
そのモンゴル勢の中で異色のメダリストがいるので、ご紹介します。名前はサイード・モエライという人で、もともとはイラン人です。どういう経緯でモンゴルに帰化したかの詳細は分かりませんが、大体のことはネット情報と現地モンゴルからの情報などでわかりました。
サイード・モエライは29歳の81kg級イラン人柔道家で、その柔道経歴は素晴らしく世界選手権で日本人選手を破って優勝したり、数々の大会で上位入賞を果たすなど活躍していました。2018年には世界ランク第一位になりましたから、柔道の世界では相当な有名人なんでしょう。その彼はイラン柔道連盟からの指導に苦しんでいたとあります。どういうことか?
イランとイスラエルはいつも仲が悪く喧嘩寸前であることは、あまり中東に詳しくない人もご存知だと思います。トランプ大統領が突然核合意を破棄したり、イスラエルの肩を極端に持つようになって一層いろんな問題が出ています。
ですが、これらは政治の問題のはずです。ところがイラン柔道連盟は、「ユダヤ人が出る大会には出るな」とか「ユダヤ人と対戦することそのものを禁止する」など、宗教的・政治的理由によりサイード・モエライに対し、かなりの圧力をかけていたようなのです。
更には、このままトーナメントで勝ち進むとイスラエルの選手と対戦することになるから、「その前にわざと負けろ」との指示まで出ていたそうです。柔道一筋で柔道にかけてきたアスリートに対して「わざと負けろ」は尋常な圧力ではありません。
日本でいえば、協会トップが「八百長しろ!」と言っているのと同じことですから。更には大会を棄権しろの圧力もあったようです。彼は2019年滞在していたドイツで難民申請をし、大阪の大会では難民として出場した等の報道があります。
そしてなぜか突然、2019年12月にモンゴル国籍に変更して、それ以降はモンゴル代表として出場しているとあります。まあ、経緯はそうかもしれませんが、「なんで突然モンゴル?」「帰化申請ってそんなにすぐにできるのか?」などいろいろ疑問は出ます。
ネットのサイード・モエライに関する日本語情報はたくさんありますが、モンゴル国籍に関しては「2019年にモンゴル国籍を取得した」としかありません。2019年にドイツで難民申請していたイラン人がどうしてわずかその数か月後にモンゴル国籍を取得できたのでしょうか?
そのカギは、バトトルガ前モンゴル大統領です。バトトルガは以前にもモンゴル柔道連盟議長を務めるなど、モンゴルの柔道界の顔でした。大統領になってからも柔道を通じた外交などもやっていました。
おそらくそのバトトルガの「鶴の一声」でサイード・モエライのモンゴル帰化がものすごいスピードで決められたんだと思います。バトトルガからすれば、優秀な世界的柔道家が苦しんでいる、このまま難民のままでは将来は不安定になる。ならばここで手を貸してモンゴル人になってもらえばいい、と考えたのではないかと思います。
日本では絶対にできない「トップダウン」「スピード感」で手続きを進めたのでしょう。私はイランとモンゴルの関係についてはわかりませんが、今回の帰化受け入れは良かったと思います。
当のサイード・モエライも「モンゴルでの生活に満足している」と言っているようです。今回銀メダルも取ったし、おそらくランクルかレクサスに乗って、ザイサンあたりの立派なマンションに住んでいるのではないでしょうか?
今回、柔道に関するモンゴル側の話を聞いたときに、「モンゴルで一番人気のある日本の柔道家は?」というのも聞きました。それは大野将平だそうです。なんでも、大野将平は結構モンゴルに行っているらしく、モンゴルではそこそこ有名らしいです。
今後も日本とモンゴルの柔道交流が深まり、モンゴルからたくさんのメダリストが出てくることを期待します。