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カテゴリ:モンゴルと中国
数日前から、モンゴルで大きなデモが起きているとの情報があります。日本のネットニュースにも出ているので、ご覧になられている方も多いと思います。この寒い時期に、一体何が起きているのでしょうか?
まず、いくつかのネットニュースを整理してみましょう。ウランバートルで数千人規模のデモが12月4日に起きたとあります。そしてそれがすぐには収まらず、7日現在でも続いているというのです。警察とデモ隊の衝突もあるようです。 場所はスフバートル広場です。一部の暴徒化したデモ隊が政府庁舎などにも侵入したとあり、更には大統領宮殿前でもデモがあるとの報道もあります。大統領宮殿であれば、スフバートル広場とは反対側の川を挟んだザイサン方面ということになります。市内でも結構広い地域で起こっているということなのでしょう。 デモの原因としては、長く続くインフレへの不満などがあるようですが、直接のきっかけは中国への石炭輸出を巡る汚職への反発とありますが、具体的にはどのようなことなのでしょうか?日本に届くネットニュースだけでは良くわかりません。 以下、私が現在得ている断片的な情報を書きます。 ここで言う中国向け石炭に関する汚職というのは、どうやら今までの汚職とはレベルが違うようです。今までも当然ですが汚職はあったに決まっていますが、それは許認可とか輸出額の何パーセントとか、よくある輸出者に対して政治家がお金を無心するというようなものでした。ですが、今回のはもっと大きく、敢えて言えば国家レベルでの汚職ともいえるレベルです。 報道では650万トン、18億ドル(2450億円相)とあり、とんでもなく大きな金額です。時代は全然違いますが、ロッキード事件の5億円、リクルート事件6億円とはけた違いどころの話ではありません。これはどういう仕組みで、どのように発覚されたのでしょうか? そもそもの発覚は、統計のずれにあったようです。中国政府が発表したモンゴルから中国への石炭輸入量とモンゴル政府が発表した中国への石炭輸出量との間に差があったというのです。その差は誤差というレベルではなく、明らかな違いであったというのがそもそもの発端です。 ネットニュースでの「650万トンが盗まれた?」というのは、この両国の統計上の差異を指していると思われます。モンゴルの石炭輸出は最近のコロナで変動が大きいのですが、2019年は3600万トン(31億ドル)、2021年は1600万トン(28億ドル)で、今年は昨年よりは増えたと言われています。確かにこのレベルの中で650万トン、18億ドルというのは「統計の誤差」どころではない差異です。 中国は実際にモンゴルから届いた石炭の量を発表しているので、差異を生み出しているのはモンゴル側です。しかも正確な数字はわかりませんが、モンゴル側の数字を単純計算すると、輸出単価が異常に低いという問題もあるのです。ま、簡単に言えば「薄められた」と表現してもいい状態なのです。 しかもこの汚職資金の捻出の仕方が複雑なのです。これだけ大きな金額となると、インチキの口座に振り込むにしても大ごとですし、中国とのお金のやり取りがあるので、外国為替の問題が出てきます。そうなれば簡単に足がついてしまうというものです。ではどうするのか? それはお金ではなく、モノで受け取るのです。例えば建設資材。ウランバートへ行かれた方は、あちこちでたくさんのアパートや商業ビルが立ち並んでいるのをご覧になったでしょう。あれらの建築資材の多くが中国から来ています。 モンゴル側で石炭を中国へ輸出し、直接の代金は受け取らずに建築資材の形でモンゴルへ輸入し、ビルやアパートを建設販売してモンゴル国内で現金化するというわけです。これであれば、外国為替を通す必要がないので、資金の流れが見えにくくなります。 ただ、これだけの金額ですから、数か月やそこらでできる話ではないでしょう。また一部の政治家がちょこちょこっと操作できるレベルでもありません。これだけの規模の汚職をするとすれば、許認可権を持つ政治家、石炭採掘業者、建築資材輸入業者、モンゴル国内での不動産開発業者、金融関係者、更には中国側での協力者などがないととてもできないのは明白です。 そしてこれだけの規模で関係者を動かせるとなれば、相当の権力者でないととてもできません。その最有力容疑者は、前首相であり、現大統領であるフレルスフではないかと言われています。確かに現在のフレルスフ大統領は歴代の中でもトップクラスの強い権力者だと聞きます。 現在のオヨーンエルデネ首相がこの件に関わっているのかどうかはわかりませんが、彼は実質的にフレルスフによって指名された首相ですから、基本的には大統領には従います。 ですが、当然のことながら現在のデモや汚職疑惑については、国民からは現首相に対して批判が行きます。もし現首相が汚職にかかわっていないとしたら?真相はわかりませんが、現在、大統領と首相が対立しているという情報も入ってきています。 これは今まで起きたモンゴルでの汚職とは比べ物にならないくらいの大スキャンダルに発展する可能性もありますが、一方で大統領と首相は同じ人民党ですから、どこかで手打ちをして「ああ、あれはオペレーション上のミスが重なっただけのことであった」なんて結末になるのかもしれません。 こうした汚職疑惑に、ここ数年溜まりに溜まった「物価高」「低賃金」「高失業率」などへの不満が一気に爆発したデモだと言えるのだと思います。マイナス30度でのデモはモンゴル人にだって寒いですが、そうせざるを得ないほどの厳しい生活環境なんだということなのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.12.10 12:54:56
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