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田崎正巳のモンゴル徒然日記

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2024.08.10
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小林製薬が揺れている、というか創業以来の危機と言える。起こってしまった問題についての技術的なことは不明なので、ガバナンスの側面を考える。

小林製薬は製薬と名前がついているが、その歴史と事業内容において非常にユニークな会社だ。創業は明治時代の伝統ある会社で創業地は愛知県である。その後武田薬品など日本の有名製薬会社が集まる大阪の道修町に移転してきた。

当初はメーカーではなく、薬問屋だった。メーカーと顧客の間に挟まれて薄利なのはいつの時代も同じである。「いくら働いても儲からんで、辛ろうて辛ろうて。」という状況を脱したく、自社ブランドを持とうと、大きく戦略を切り替えた。

とはいえ薬品の開発は簡単ではないし、技術力もない。そこで目を付けたのがトイレタリー分野で、花王などの大手がやらないすき間分野であった。企画、販売は自社でやるが、製造は下請けとした。

「ブルーレット置くだけ」「さわやかサワデー」「トイレその後で」など、耳に残るネーミングと上手いテレビCMで会社は急成長した。その企画からネーミング、CMまでほとんど一人の男がやっていた。それが1976年に社長になった小林一雅氏である。

彼は正にスーパースターである。社長就任後も、ヒット商品を連発し続けた。彼がすごいのは、どこかのオーナー企業企業みたいに部下がやった仕事に余計なアドバイスしたり文句言ったりするのではないのだ。社長自ら商品企画からネーミングまでやりこなし、それが実際にヒットするのだ。

そんなスーパー社長も世代交代を考え、2004年に社長を退任する。息子の小林章浩氏はまだ若かったので、実弟の小林豊氏が社長を継いだ。小林一族が経営陣に多いので、社員には一雅氏はKさん、豊氏はYさん、章浩氏はAさんと親しみを込めて呼ばれている。ここでもそう呼ばせて頂く。

Kさんは会長になったのを機に、マーケティング機能を全面的に若手を中心とした部門に任せたいと思った。自分がいなくても、ユニークな商品開発が続いて欲しいと本気で願っていたのだ。だが実態はそうはいかず、若手が企画のアドバイスや判断を会長のKさんに聞きに行くのだった。まだ実質的決定権があったわけではないのに。

企画担当者は言う。「Kさんに聞くと本当に納得できる答えが返ってくるのです。」「権限規定とかじゃなく、マーケッターとして私たちとレベルが全然違うのです。」本気で先輩に学ぼうとする姿勢は良いが、残念ながら追いつけない。この頃からヒット商品が出なくなった。

ヒット商品が出にくくなったのには2つの理由が考えられる。1つは30年近く新商品開発を一人が担ってきたので、組織としての開発能力が低いこと。もう1つはニッチ市場にユニークなネーミングで参入した競合が増えたことである。

ガバナンス面でも課題は続いた。30年近く会社を成長させてきたのはKさんのリーダーシップによるものであり、現在の小林製薬の実質的創業者であることは誰もがわかっていた。だから経営面でも社長のYさも含めて、重要な課題では皆がKさんの発言を待った。

要するに、会社の生命線である商品開発と経営の重要事項の決定についてはKさん頼りから抜けられず、基本的構造は変わらなかったのだ。そしてそのまま2013年にKさんの息子のAさんが社長に就任した。今回の事件が起きた時の社長である。

前社長のYさんは会長にはならず退任し、Kさんが会長を続けたところにもこの会社の本音が見える。息子のAさんは社長と言っても、とても父親の顔色を見ずには何も決められないだろう。

今回の事件の調査報告書には、「Kさんの責任は重い」とわざわざ書いてある。だが、会長は退任するKさんは特別顧問になる。結局何があっても全てはKさん抜きでは、会社の舵取りができないということだろう。新社長は小林家に忠実な番頭さんのようだ。

Kさんは、外部からの想像されるほどワンマン会長ではなかったと思う。しかしながら結果として半世紀もの間、経営の中心にいた責任は重い。中内氏後のダイエーを思い出す。カリスマ経営者の後はいばらの道が多い。

小林製薬の行く末が心配である。





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Last updated  2024.08.10 10:50:56
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