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カテゴリ:書籍 海堂 尊
イノセント・ゲリラの祝祭 [登場人物] 田口 公平・・・東城医大講師。不定愁訴外来(愚痴外来)責任者 白鳥 圭輔・・・厚労省キャリア。通称「火喰い鳥」 八神 直道・・・厚労省キャリア。ミスター厚労省の異名をとるエース 加納 達也・・・警察庁キャリア。通称「電子猟犬~デジタル・ハウンドドッグ~」 西郷 綱吉・・・上州大学法医学部教授 彦根 新吾・・・房総救急救命センター所属病理医。田口の後輩 [物 語] 新興宗教団体内で信者が不審な死を遂げた しかし、ことを荒立てたくない地元警察は心不全として闇に葬ろうとする そこへ現われた電子猟犬・加納達也は、真相を暴きだす 東城医大で、平穏な日々を過ごしていた田口は院長室へ召喚され、厚労省の諮問会議に引っ張り出される 依頼主は医療過誤死関連中立的第三者機関設置推進準備室室長・白鳥圭輔 まんまと白鳥・高階のコンビに嵌められた田口は厚労省の迷路の中にたたき落とされる 一方、白鳥にエーアイの有用性を吹き込んだ張本人・彦根新吾は、エーアイの本格導入のため、暗躍を始める 希代の軍師、スカラムーシュ(希代の大ぼら吹き)彦根が厚労省の会議を戦場に変える 現代医療の抱える闇をあぶり出す医療小説 [観想的なもの] これまでの集大成のような小説 本作は「チームバチスタの栄光」の舞台を引き継ぎながらこれまで、作者が問い続けていたテーマ「死因不明社会の恐怖」「医療現場の崩壊」をつきつめた作品 「チームバチスタの栄光」は手術中に殺人が行われるというショッキングな作品だったが、一連の作品を通読すると、あれは、今作のための舞台装置の一つだと理解できる 医療現場では、意図せずとも不幸な事態が訪れる 医療事故であれば、医師は医師法21条に基づき、警察に通報しなければならない しかし、明らかな医療事故でない場合、事故か通常の医療行為かの区別がつけにくい 解剖は遺族の承諾が必要なうえ、厚労省は死因究明へ医療費をケチり、結果として日本の解剖率は2%台だという 残りの98%には(チームバチスタの栄光のような)殺人が含まれていたとしても何ら不思議ではない ミスター厚労省・八神はアリバイつくりのために医療事故対策の諮問会議を開催するが、結論はあらかじめ厚労省で用意し、うやむやに処理しようとする そんな厚労省の手のひらで踊らされていることも知らず、病理学会と法医学学会はその2%を奪い合い、また新技術エーアイを締め出すためにやっきとなっている そんな中、登場するイノセント・ゲリラ彦根は外科医→病理医という経歴から見ても作者の分身の一部なのだろう これまでロジックモンスターと呼ばれていた白鳥のさらに黒幕的存在としてエーアイ推進のために、厚労省に揺さぶりをかける 彼の武器は、医師のストライキ 日本の医療の現状は医師の献身的なボランティアによってかろうじて支えられている 2%台の解剖率をカバーするために、残りの98%は医師がそれらしい死因をねつ造しなければならない現実 しかし、司法は、いたずらにその聖域に踏み込んでくる 大野病院産婦人科医師逮捕事件(作中は極北市民病院)は医療界に衝撃を与える 解剖しようにも予算が与えられず、かといって予断で死因を決定すれば、医師法違反を問われてしまう 厚労省の不作為が現場の医師を殺人者に変えていく しかし、医師がその責務を放棄すれば98%の死は死因不明で巷にあふれかえるだろう そんな現実を直視せず、省益のみを追究するミスター厚労省・八神(厚労省の体現者) 最終的な結論としては、なかなか突飛すぎて現状では、官僚界というモンスターに跳ね返されること必定だが、医療界に一石でも投じられればという気概が感じられる小説だった。 [採点] 人物描写 ★★★★★ 世界観 ★★★★☆ 物語 ★★★★☆ 技術 ★★★★★ インパクト ★★★★★ 総合 ★★★★☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年12月20日 00時31分57秒
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