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カテゴリ:計量と計測を考察する「計量エッセー」
「熱力学温度」の概念構成の立役者はケルビン卿
Temperature changes in the Earth's atmosphere and thermometers 地球温暖化は地表環境の温度計測によって求められた値をもとに議論される。この是非をめぐって地球温暖化論争が繰り広げられているのだ。温度とは何か、答えは「温度計によって測られる量」だとすると温暖化論争に決着がつかない。行き着く先は地球は暖かくなっているような気がする、のかそうではないのか。とうことで気がすることをめぐっての争いになる。地球の大気は温まったり冷めたりの循環のうちにある。その循環に以上があるのか、以上があるとすれば何が作用しているのか。気温上昇は循環のうちの一過程であるのなら問題視することはないことになる。 地球大気の温度変化と温度計 写真はケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン。 ウィリアム・トムソン - Wikipedia 初代ケルヴィン男爵ウィリアム・トムソン(英: William Thomson, 1st Baron Kelvin OM, GCVO, PC, PRS, PRSE、1824年6月26日 - 1907年12月17日)は、アイルランド生まれのイギリス (当時のグレートブリテンおよびアイルランド連合王国)の物理学者。爵位に由来するケルヴィン卿(Lord Kelvin)の名で知られる。特にニコラ・レオナール・サディ・カルノーの理論を発展させた絶対温度の導入、ルドルフ・クラウジウスと独立に行われた熱力学第二法則(トムソンの原理)の発見、ジェームズ・プレスコット・ジュールと共同で行われたジュール=トムソン効果の発見などといった業績がある。これらの貢献によって、クラウジウス、ウィリアム・ランキンらと共に古典的な熱力学の開拓者の一人と見られている。この他、電磁気学や流体力学などをはじめ古典物理学のほとんどの分野に600を超える論文を発表した。また、電磁誘導や磁気力を表すためにベクトルを使い始めた人物でもある。 写真は田中館愛橘。田中舘愛橘 - Wikipedia 田中館愛橘は明治21年(1888年)1月、文部省より電気学及び磁気学修養として、イギリスのグラスゴー大学への留学を命ぜられる。グラスゴー大学ではユーイングの旧師であったケルビン卿に師事した。ケルビンから多大な影響を受けた愛橘は生涯に亘ってケルビンを尊敬した。明治23年(1890年)3月頃にヘルムホルツが教鞭を執っていたベルリン大学へ転学、ここでは1年間に亘り電気学などを学んだ。明治24年(1891年)7月にアメリカ経由で帰国、7月22日付けで東京帝国大学理科大学教授に就任し、翌月に理学博士の学位が授与された。 (タイトル) 地球大気の温度変化と温度計 (本文) 温度の単位はケルビン(K)であり、国際単位系SIの基本単位の一つ。SIにおいてケルビン(K)は、ボルツマン定数kを単位J K−1 (kg m2 s−2 K−1に等しい)で表したときに、その数値を1.380 649×10−23と定めることによって定義されている。この定義により測定された温度が熱力学温度である。以上が熱力学温度の説明であり、平たく言えば普通の人が考える温度のこと。 国際温度目盛は、熱力学温度と近似的に合うように作られた実用的な温度目盛であり、物質の相転移などを利用した温度定点(定義定点)と、その温度定点の間を補間する白金抵抗温度計や放射温度計など数種類の安定な温度計を利用して定義されている。1927年に最初の国際温度目盛が定められ、精度向上等のために改訂が重ねられ、現在は1990年国際温度目盛(ITS-90)が使われている。 国際温度目盛による温度を記述する際にも、熱力学温度の単位と同様にケルビン(K)が用いられる。 日常生活で広く使われている、セルシウス度(℃)で表されるセルシウス温度の数値は、ケルビン(K)で表される温度の数値から273.15を引いたもの。こちらも、熱力学温度と国際温度目盛による温度の両方で用いられている。 ITS-90について。接触式温度計による温度の標準供給。計量法で定める校正事業者登録制度(JCSS)として我々が標準を維持・供給している温度域は、白金抵抗温度計=−189℃ (アルゴンの三重点温度) to 962 ℃(銀の凝固点温度)。熱電対=962℃(銀の凝固点温度) to 1554 ℃(パラジウム点)。 これらの温度標準は、海外の標準研究機関と相互比較を行っており、国際的にも整合性が取れていることを確認している。この温度標準によって新規温度センサの開発・評価、温度計評価技術の開発、熱力学温度など温度標準の高度化に向けた基礎研究が進められている。 以上が、産業技術総合研究所計量標準総合センター物理計測標準研究部門温度標準研究グループによる熱力学温度である。 「熱力学温度」の概念構成の立役者はケルビン卿であり、その名は今日の熱力学温度の単位「ケルビン(単位記号K)」に留められている。これがなされたのは1848年。ケルビンは「氷点と水の沸点との間隔に100という値を与えて」熱力学温度を標準化した。関連して氷点の熱力学温度Tゼロ(0)を求める実験が始まった。その値273.1の次の桁の決定に年月が費やされた。熱力学温度の量記号はT(SI単位はケルビン (K))。さまざまな気体の膨張係数の実測値に補正を加えて、理想気体の(氷点と水の沸点の間の)膨張係数を求め、逆数を取ればT0(ティー、ゼロ)が得られることになる。 日本の木下正雄、大石二郎が得た結果を含む108個のT0(ティー、ゼロ)データが,ビーテイーの総合論文に掲載され、のち芝亀吉の講座記事『最小二乗法』で活用されて、単純な(加重でない)平均としてT0=273.152が得られた。この定数値に関する国際的な議論は戦後に持ち越される。 ケルビンが考え出した熱力学温度であっても、定数T0(ティー、ゼロ)が確定されなければ、セルシウス目盛の原点(氷点)と熱力学温度の原点(絶対零度)との関係が確定されない。つまり両目盛の値の換算ができない。 ケルビンとセルシウスの両目盛の値の換算は1948年に二つの考え方(案)が公認される。ケルビンの提案から100年目にあたる。第一案は、 2定点方式を排除し、1定点方式に移行する、こと。第二案は、 氷点を排除し、水の三重点を採用する、こと。第一案はセルシウス方式からレオーミュール方式に移ることと対応する。この二つの方式はそれぞれ人名に由来する温度計測の方式である。第二案は,水の2 相(固・液)平衡を排除し、3 相(固・液・気)平衡に依拠する方式。 第一案と第二案の優劣として次のことがある。2相平衡の温度は圧力の影響を受ける(特に液・気の平衡では著しい)から、温度基準点としての適格性が低い。3相平衡は、圧力の影響を受けず、唯一の温度として定まるから、温度基準点としての適挌性が高い。 1948年に開かれたメートル条約の最高機関である国際度量衡総会の戦後初めての会合(国際単位系(SI)の骨格が提案された会)で、次のことが確認された。ただひとつの基本定点(実際には純水の三重点)しか含まない絶対的な熱力学温度目盛の原則、セルシウス目盛のゼロ点は純水の三重点より0.01度だけ低いこと、「℃のCの由来は」百分度(degré centigrade, degrécentésimal)ではなく、セルシウス度(degré Celsius)と解すること。 温度に関係する国際的な検討は更に慎重に続けられ、同総会の1967/68会合で、次の(今日では周知となった)「熱力学温度のSI単位の定義」が決議された。熱力学温度の単位、ケルビンは水の三重点の熱力学温度の1/273.16である。 水の三重点を基準とする提案と検証はドイツ国立物理工学研究所の1929年にモーザーら、水の三重点-氷点の値は1938年にビーテイーらが熱電対50組を直列にして実測され0.0098度が得られ、その数値を丸めた値0.01度が公認された。日本最初の「水の三重点セル」は中谷昇弘、内山英樹らの手で実現された。 物質としての「水」の同位体組成が重要であり、その後に「Vienna Standard Mean Ocean Water の同位体組成に等しい同位体組成をもつ水」との規定が水の三重点に関係して勧告された。 「国際温度目盛」という温度計測標準かかる協約があり、1927年以来たびたび改定されてきている。その内容は「規定された温度計たとえばしかじかの条件を満たす白金抵抗温度計を、規定された複数個の温度定点で校正しておけば、以後それの電気抵抗値から国際温度目盛による温度を求めることができる」というもの。協定は「実行の容易でない熱力学温度測定の結果と充分に整合させることのできる」厳格さを国際間で結んでいる。こうした国際協定によって温度測定の確かさを保障している。 「不確かさがすべて表記された、切れ目のない比較の連鎖を通じて、通常は国家標準または国際標準である決められた標準に関連づけられうる測定結果または標準の値の性質」が計測のトレーサビリティ(traceability)である。トレーサビリティは逐次に整備され、国家標準ひいては国際標準と適正に関連付けられることによって研究開発や生産の現場での計測の確かさが確保される。こうした体制下にあってなされる温度計測はその測定のトレーサビリテイに見合った不確かさでの「温度」だと判断してよい。 マクスウェルの『熱学』は、「熱は生成されもし、消費されもするのだから、不滅と考えられる物質とは明らかに異なり、熱の量は,熱の作用に密着した方法で測るべきものだ」とする。そして「ある物体の温度とは,他の物体へ熱を伝える能力に着目して評価される、その物体の状態」と説明する。マクスウェルに次ぐ世代の物理学者プランクは、『熱力学』の初章で、冷温感覚を顧慮しつつも「科学的に用い得る定量的の尺度」は「直接の感覚からは導かれない」として、極めて慎重に「物体の体積」その他の適格性を吟味し始め「温度の定義の任意性は依然として除かれない」と言い、「個々の物質の性質に無関係な,温度の定義は 熱理論の第二主則(熱力学の第2法則)を基礎として初めて可能となる」とし、「それまでは、気体寒暖計によって、十分な精密さを以て、定義せられる様な程度の温度のみを問題とする」と宣告する。古典熱力学および統計力学としての温度の説明は上のとおりである。 地球温暖化は地表環境の温度計測によって求められた値をもとに議論される。この是非をめぐって地球温暖化論争が繰り広げられているのだ。温度とは何か、答えは「温度計によって測られる量」だとすると温暖化論争に決着がつかない。行き着く先は地球は暖かくなっているような気がする、のかそうではないのか。とうことで気がすることをめぐっての争いになる。地球の大気は温まったり冷めたりの循環のうちにある。その循環に以上があるのか、以上があるとすれば何が作用しているのか。気温上昇は循環のうちの一過程であるのなら問題視することはないことになる。 2023-10-30-temperature-changes-in-the-farths-atmosphere-and-thermometers- [資料] ウィリアム・トムソン(ケルビン卿) - Wikipedia 田中舘愛橘 - Wikipedia お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年10月31日 00時00分14秒
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