蓬萊
蓬莱 新装版【電子書籍】[ 今野敏 ] 平成6年初版,平成9年文庫化。 スーパーファミコンが出てくるから,かなり古臭いのだけれど,安積班長シリーズとしては素晴らしい出来だ。 感動とか涙が出てきたとかそういう類の素晴らしさでもないし,ミステリー的に優れているわけでもない。 今野の5色シリーズとか特殊防諜班シリーズともまた趣が異なるのだけれど,なんと本作には,歴史学あり,政治学あり,警察学あり,捜査学あり,反社学ありとこれだけ書いたら総花的と言われそうだが,そうではなくて,それぞれの知識が実に深く,それらの小ネタを読むだけでもためになるのだ。 平成シングル私はまだ40代で,仕事的に最も脂が乗っていた時代だ。 だからそんな時代,残念ながら推理小説など読む暇がなかった。 今ね,今野敏の作品は脳内スパークがしない,文章力がない,なんてうだうだ書きながら,また彼の本を読んだら,いやあなんとこれが傑作だったというのが本作だね。 今野は,コンピューターやネットに詳しいんだね。 そういう作品が時々出てくる。 そして思うこと,このサイバーの世界は日進月歩,書いているうちに時代が変化している舞台なのだ。 それは流行作家には実に困難な状況ではないのか。 本作を読んでみて,本作は玄人向き,とても売れた話ではない,と私は思いつつ,本作に引き込まれてしまった。 時代は,現代から過去を見ることしかできない。 未来は過去から現代に来た線上のベクトルにある。 未来の予測はできても予言はできない。 私は,本作からそのことを学んだ。 今野敏おそるべし,たまにいい作品を書く作家だ。