こうして誰もいなくなった
こうして誰もいなくなった【電子書籍】[ 有栖川 有栖 ] 表題をみればこれは,そして誰もいなくなった,のパロディだなとすぐわかる。 本作はこの中編のほか,短編やらショートショートが入っていて,なかなか華やかである。 パロディは,アガサ・クリスティーのほか江戸川乱歩の怪人二十面相,それにルイス・キャロルの不思議の国のアリスのも入っている。 けれどもそれら短編やショートショートに比べると,表題作が一つ頭を抜いている上質なミステリーの作りになっている。 ただ,最終盤の詰めですな,ちょっと粗かったな。 離れ小島に招待された成員が一人一人死んでいくパターンでは,招待成員しか犯人足りえないわけだ。 そのうちのだれを犯人にするかということですよね,それはこれまた様々なパターン可能性があるわけで,考えられるだけのパターンを出せば,全部みろっとめろっとお見通し状態になるのだ。 それを作中の巡査にも響探偵にも語らせているわけだから,有栖川は意外とフェアなミステリー作家なのかもしれない。 以上ミステリーの根幹を考察して評してきたけれど,本作の殺人の動機が反社会的な人々を殺すというところにあるのだから,これをあたかも必殺仕事人のようにその涙涙を語らせていったら,もっと厚みのあるミステリーになったことだろうな,なんてあたしゃあいらぬおせっかいを考えてしまった。 そんなことを書いたら,つまりミステリーとは,その基礎である,動機,機会,方法に物語性で厚みを作る文学なのだということに気づいてしまった。 本作も耳読によったが,これは目休めになりますな。 そのうえ脳内スパークがすごい。 読書の一手法として当分の間やめられそうにない。(3/16記)