デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士
デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士【電子書籍】[ 丸山正樹 ] さすが小説家。 物語が整然と進行していく。 こういう技倆がミステリー作家にも必要だと思うよ。 前読芦辺拓の作品があまりにもひどすぎて、本作が実に素晴らしい佳作に思えてしまった。 そもそも法廷の手話通訳士という副題だから、福祉的なヒューマンドラマかあるいは法廷を舞台にしたミステリーかと思ったが、冒頭からミステリー的な流れがなかったので、これはヒューマンドラマかなんて思いながら読み進んだ。 ところがだんだんだんだん話が複雑化していく。 そう、ミステリー作品だったのだ。一番の大きなポイントは、いたはずの女の子がいないということ、すなわち彼女は綺麗サッパリ戸籍上から抹殺されていたのだ! いやあ、この作家嫌にこの点にこだわるなあと思って読んでいたら、なるほど、そういうことかと中盤以降納得するのだった。 ヒーローを警察職員にする必要性があったのかな。 警察の裏金問題の内部告発者みたいにヒーローを描いているけれど、それだったら最初に書いておけばよかったろうに。 そもそもそれは北海道警察からの端緒であった。 ヒーローのような一介の職員には理解不能な不正ではなかったのか。 それはともかく戸籍から消失した問題も明らかになり、それから私が重要視しているミステリーの要素のうち、触法少年の問題もクリアしていた。 ずいぶん練りに練った作品だとわかった。(12/30記)