遠くからの声
遠くからの声【電子書籍】[ 松本清張 ] 8作からなる短編集である。 読了すると, 全く頭の片隅にも残らない, 何が何だか分からないようなカスしか残らないそんな感じの短編集だったのかなと思う。 それに残っているのは, いわゆる警衛警備で進路を間違ったばかりに署長と自分が, 文字通り腹を切らなければならなかった話, それが後に, その進路を間違った警部殿の息子が警察官になって, みごとその警衛警備の対象である廃れた元宮様の薬物犯罪を暴き出し, 逮捕するに至ったというのは, ちょっとばかり心に残ったかな。 でもこの話は, 結局何のミステリー トリックが入っていないという欠陥商品でもあったのだ! しかしそれにしても清張はなぜにこうも色恋沙汰が好きなのか, やはり多作家症候群に罹患していたのだな。 そういう話題を入れないと, 売れなかったんだろうなと思う。 本格推理小説というジャンルで普遍的な作品を書き続けるべきだったろうにそれができなかったのは, 結局 松本清張という作家の貧乏性のなせる業なのだろう。 それでもさすがに清張が, 短編の王様などと言われることが本短編集を読むとわかる仕掛けになっている。 本短編集に書かれた話は, 当然短編だけに独立はしているものの, 逆に言えば何の統一性もない話で,ただひたすら売らんがための小説仕様であったということは間違いのないことだ。 作家の世代が森村のところまで来ると少しは, 近代的な匂いがするのだけれども,さすがに清張では, そのものに取り付いている終戦直後の状況が拭いきれないため, 逆に言えば, それは乱歩にも正史も書けなかった荒ぶる時代のモニュメント的な作品集だったことは間違いのないことだ。 (6月8日記)