生首に聞いてみろ
生首に聞いてみろ【電子書籍】[ 法月 綸太郎 ] さて法月綸太郎シリーズ,この探偵は名というには少し粗忽なところがあり,したがって現役警視である実父に頼らざるを得ないという一風風変わりなコンビのミステリーシリーズだ。 それにしても法月警視が出てくるまでは小難しい話を振りまいて,おいおい有栖川有栖かよなんて言いたくなるわけだ。 または反社的な歌野晶午?なんてね。 だから法月警視よはよう出てまいれと読中心に祈っていた。 しかし本件において殺人の事実が描かれるのは全500ページ近くの大作の半分あたりときたもんだ。 また法月警視がでるわりに,検視を検死と書いたり,重要な事件で死体検案書がでたりするなど警察に関する取材がまるでなされていないというリアルのなさにはあきれる。 つぎに警視は,ほとんど現場には出ないもの,身内を捜査に加わらせることはない,という不満も書いておきたい。 いっぽうそれでも法月シリーズが私的にそれ以上の不興をもたずに読了できたのは,高いストーリー性が認められるからだ。 というのは本作では,義理の弟に襲われた,がキーワードになるのだが,この言葉の周辺が謎解きの根幹になり,ミステリー性も実に高いものになったのだ。 そもそもミステリー性のないミステリーはミステリーではない。 ようするにミステリーで重要なのはリアルだ。 いわば空理空論はいらないのである。 とりわけ無理のあるトリックは小説だから許されるような風潮があるけれど,私は認めない。 以上のように根拠のないアンリアルは認められない。 たしかにぶっ飛んだトリックは面白いだろうがそれよりリアルだよ,ミステリーに必要なのは。 他方では原稿用紙のマス目を埋めればよし的な作家もいるけれど,そういうのは私は御免だ。(1/26記)