鍵のかかった家
鍵のかかった部屋 (角川文庫) [ 貴志 祐介 ] ここまで密室モノで攻められると口飽きしてくる。 密室モノの短編集なのだが読後どれがどれやら判然としない状態になった。 たしかに密室はミステリーに欠かせないものだけれど,それが何度も何度も短編で登場してきては,考えるのも面倒で,しかも榎本という防犯探偵,これぞ独り善がりの権化,だからわたしゃあ青砥純子弁護士を応援してしまうのだ。 でも発想は面白い。 欠陥住宅の密室モノでは,なんとピッチングマシーンを使用した。 欠陥住宅だから,使用されたテニスボールは斜めを転がり全部回収されたという。 だが警察の微物鑑識によりテニスボールの毛が検出されるという,完全犯罪には程遠い犯行となった。 私は東野を読んでいるものだから,その完璧さを感じているので,貴志はどうも荒削りな感じがしてならない。 たしかに面白いトリックではあるが,ミステリーにはストーリー性もあるわけで,ただ単なるトリックの羅列では,ミステリー足り得ない。 だからトリックを考えだしたらそこにストーリー性を乗せ,読み手を感動させなければならないのだ。 そういう意味で本作はイマイチでしなな。 そもそもミステリーの読み手は文系人間だから,七面倒臭いトリックは理解不能に陥るのだ。 だからある程度のアバウトさは必要だ。 しかし必要以上なアバウトはかえって夢物語にしか過ぎなくなる。 いかにもリアルな感じの嘘。 そういうのが必要だ,ミステリーには。(2/21記)