完全犯罪の座標 傑作短編集7
完全犯罪の座標 傑作短編集(七)【電子書籍】[ 森村誠一 ] ふむ,ここ数編つまらん作品が続いていたけれど,本集は確かに傑作集である。 さて本集は表題作である完全犯罪の座標,妖獣の債務,魔犬,風媒の死,盗めなかった切り札,致死鳥,断罪喫茶店,飼い主のない孤独,盗まれた密室の9作からなる。 しかし何作か他の短編集にも入っている作品もあって,あーまたかなどとも思ってしまうのだけれど,そういう作品に限って優れた作品なのである。 それにしても,私は森村モノに関して,テ,という言葉を使って表現しているけれども,特に目立つのは動植物の毛とか実,花粉などの微物,交通事故にまつわるエピソード,登山,完全犯罪に対するこだわりなどで,そのようなストーリーが始まるとあーまた始まったかと思ってしまうのだ。 そもそもそれが森村モノだから仕方ないけれど…。 それはともかく完全犯罪の座標は,置き去りにした被害者の上にホテルから飛び降りた人がぶつかる偶然の話。 たしかにそういう偶然がないわけではなかろうが,ようするに偶然を使うのはやはり私はミステリーリーダーとしてその作家が,多作家症候群に陥っているのではないかと疑ってしまうのだ。 まずもって作家は偶然ではない知恵絞りによってミステリーリーダーの鼻を明かして欲しい。 もっともその点順序が変わってしまうけれども,9番目の盗まれた密室は,実によく出来た作品で,モーテルにおけるマジックミラーが密室を砕いてしまうのであった。 なおこの作品における密室は,ほぼほとんどの人が不可能な軟体人間のなせる業であった。 幼虫の債務は教誨師の話。 魔犬は,サー・アーサー・コナン・ドイルの バスカヴィル家の犬を彷彿とさせるデカと言う犬の燃えた犬の話。 風媒の花は花粉の話,つまり微物ですね,今は科捜研辺りの鑑定力がこの時代よりもずっと進歩していることに着目しなければなるまい。 盗めなかった切り札は殺人事件のない泥棒話,こういう話もたまにはいいですね。 致死鳥はほとんど未消化の小さな赤い実,ピラカンサ,これが解決のタネになる。 断罪喫茶店は喫茶店の持ち物間違いからはじまるミステリーだ。 飼い主のない孤独は猫の排泄物から犯人を割る話。 本傑作短編集7は森村の短編としてはまさに傑作にあたる9作が載せられていたと思う。 最近森村モノを読んで,不快感に苛まれていたけれども,今回はミステリーをじっくり楽しませてもらった。