十三番目の陪審員
十三番目の陪審員【電子書籍】[ 芦辺 拓 ] それにしてもすごいところに目を付けたものだ。 まずもって著者自身がいう逆本格ということばに敬意を表したい。 もっとも読み始めはいったいどうなるものかと不安であった。 なにしろDNA捏造による冤罪捏造なのだ。 いかにもミステリー好きが喜びそうな話だ。 だが死体なき殺人ではミステリーとして体をなさないではないか。 さて本作は著者のシリーズモノの一つ,森江俊作弁護士モノだ。 そもそも著者に関してはあまり興味がなかったので詳細は知らない。 それはともかく芦辺拓は22年度のなんと推理作家協会賞受賞者だったのだ。 しかしそんな作家の作品は,本ブログでは3作アップされている。 たしかにいずれもよくよく練られている佳作なのだがいかんせん読みにくい。 ようするに文章力に難があるということでしょうなあ。 ただ私はひたすら本作の謎に迫った。 死体なき殺人などという陳腐なミステリーを推理作家協会賞受賞者が間違っても書かないだろうから,殺人は行われており,被害女性が必ず存在すると予想した。 その予想はそのとおりであった。 ミステリーリーダーの面目躍如だ。 著者がさらにひねっていたのは死体なき殺人ではなく過去の殺人事件に鷹見という登場人物つまり冤罪の被害者を重ねたのだった。 そして著者は丁寧に鷹見の母親ともう一人の容疑者の母親の生年月日が同じであるというフェアなヒントを出すのだった。 私はミステリーリーダーとして読中真犯人を割り出していたのだった。 ここまでをまとめるとこうだ。 正史の得意技とばかり思っていた,双生児,を出現させた芦辺拓は,東野世代というべき世代だが,このたびようやく賞を取ることができ,まずもってお祝い申し上げるとともに,当ブログではカテゴライズ化して今後注意深く芦辺の作品を読んでいくことにする。(1/12記)