叙述トリック試論とか
叙述トリック試論とか【電子書籍】[ 我孫子武丸 ] さて叙述トリックとは, 「小説における、作者と読者の間の暗黙の了解のうちの一つあるいは複数を破ることによって読者をだますトリック」ということである 私は本書を読むまで大きな勘違いをしていた。 それは叙述トリックと倒叙を間違えたことだ。 倒叙のミステリーには名作がたくさんある。 だから倒叙に関する面白い論が展開されるのかなと思ったら違っていて,つまり読み手が読んでいて, 「そんなのはアンフェアだ!」と思った方は多いだろう。 もちろん、アンフェアである。 と感じるミステリー,男と女をはっきりさせないとか,医者と患者を錯誤させるような書き方などの小手先でのトリックをどうも叙述トリックと言うらしい。 だから私なんざ,そんなものに踊らされ騙されて悔しい思いをするよりも先の著者が書いたようなアンフェアという思いを強くして,何も 叙述を特別視して論じる必要はないと思うのだ。 この点について著者も, ただ、一つ付け加えておくと、物理トリックに関してもいえることだが、このようなトリック分類は非常に不毛な作業であり、ここから産み出されるものなどほとんどないといってよい。 自分が思いついて一瞬新しいと思ったトリックも、自分自身の分類に当てはめることができると知ることは、落胆以外の何ものももたらさないからだ。 などという見解を記している。 ミステリーに様々なトリックはあるけれども,私はこの度我孫子武丸が論じた叙述トリックは,トリックとしては認めたくないな。 さて本書は叙述トリックについてとうとうと論じた後,東西のミステリーライターの評論にも移っていて興味深いのであるけれども,有栖川有栖については学生有栖,作家アリスの2人がいるなどと分析していながら,乱歩,正史,清張,森村,東野について何ら書かれていなかったのがとても不満だ。 東野と同時代の作家 なんだろうけれども,ミステリーに華麗なトリックを取り入れさらにストーリー性のある文学に昇華した東野を評論せずして何がミステリーの評論なんだろうか。(4/1記)