獄の棘
獄の棘【電子書籍】[ 大門 剛明 ] 刑務官の世界が舞台というのも珍しい。 そもそも知らない世界であるから、作者の取材力を信じるほかあるまい。 刑務官ものとはいえ、れっきとしたミステリーだ。 新人の、3代続く刑務官一家の良太が主人公だ。 彼がたくましく一丁前の刑務官になっていく姿を描きながら、数々の事件を解決していく。 この世界がこうだとかどうだとか言えない。 ただ作者のここにある話に没頭しなければならない。 そうして読み手はそこにある話を楽しむわけだ。 はたして刑務官が、赤落ちなどというギャンブルをするかどうかはわからない。 でもこの物語の中ではそういうギャンブルが存在するのだ。 この物語の肝は、房内における殺人だろう。 それが最大のミステリーとなり、大団円を迎える。 受刑者の矯正という大きな命題に対し亮太がどう向かうかがポイントでもある。 坂口安吾の、あんごう、を利用した暗号ものは凝っていた。 この暗号だけで1作ができそうだ。 いじめられっ子の心理も見事だ。 脱走なんてこの世界では認められないことだろうが、そういう話があるのは小説だから許してくださいということになる。 この話は思ったとおり、外に出たくないからわざと見つかるように脱走を図ったものだった。 そこに、ヘンゼルとグレーテルのパンくずまでご丁寧に出して演出したりしてね。 演出はよし、でも流れが悪くてね。 話がガクガクと進むんですよ。