1人当たりの国民所得
かっては国の豊かさの指標として「一人当たり国民所得」というものがあった。小学校の頃、社会科の地図帳の表紙裏にその国民所得の高低を色分けした世界地図があり、日本はアジアの中では突出して豊かであったが、欧米に比べるとまだまだ貧しかったのをよく覚えている。あの頃は街で欧米人を見かけることもめったになく、そしてそのめったに見かけない欧米人はおしなべて「金持ち」という眼でみられていた。だから国が豊かになっていく過程というものは、「一人当たりの国民所得」順位が上昇していくというイメージが強い。そしてこの「一人当たり国民所得」の順位はバブルの頃にピークに達した。たしか、記憶ではスイス、米国、日本の順で、堂々世界第三位であった。そしてその国民所得世界第三位ということも、新聞などでずいぶん報道されていたように思う。最近ではこの「一人当たりの国民所得」という言葉をあまり聞かない。けれども、どこかに統計があるはずで、ネットで検索をしてみると、この「一人当たりの国民所得」つまり「一人当たりのGDP」は、2017年で日本は25位となっている。一位のルクセンブルグが105,807USドルであるのに比べ、日本は38,440であるので、ルクセンブルグは日本の2.7倍になる。スイスは相変わらず高順位で2位、80,591USドルで、日本の2倍ちょっとというところか。アジアで日本より上位の国はカタール、シンガポール、香港、イスラエルで、下位をみると、アラブ首長国連邦26位37,226USドル、韓国30位29,891USドルとなっている。なお、膨大な貧困層の問題などが指摘され、手放しで「豊かな国」というイメージのなくなった米国は、それでも8位59,501USドルである。1人当たりGDPは為替相場による面もあるのだが、国の豊かさの指標であることにはかわりないだろう。世界第三位の国民所得なんていっていた頃は同時に「一億総中流」などといって、厚い中流層のいた時期でもあった。今のように貧富の格差が開いた時代には、3位から25位という順位の下落以上に貧しさが拡大しているだろう。もう日本が豊かな国であるというのは幻想なのかもしれない。日本が貧しくなっても、たしかに危惧しているような不満層の爆発や社会不安はない。貧困は自己責任という概念(真偽はともかくとして)は当の貧困層を含めて、国民のかなりの部分に浸透しており、しかも、経団連の偉い人が言っているように「日本の貧困はアフリカよりもマシ」なので、一応腹は満たされており、逸脱行動もあまりない。老人の遺体を遺棄しての年金詐欺、児童虐待、万引きといったちまちました犯罪は映画のように数多く起きるが、別にそれで社会が揺らぐことはない。よいとか悪いとかではなく、これも時代の流れということか…。