
「反哲学的断章」 文化と価値
ルードヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン /丘沢静也 1999/8 青土社 単行本 241p
No.974★★★★☆
「論考」にも「探求」にも入らなかった断章を集めて一冊にしたものが、この本。かといって、Oshoがいうところの「考察」とも違うようだ。
ヴィトゲンシュタインは哲学においては革命児だったが、文化や価値にかんしては保守的な伝統主義者だった。この対照がなかなかおもしろい。20世紀人らしく、独創性コンプレックスももっていた。「反哲学的断章」は、そういう彼の生理をよく伝えている。p239
この本では、ルードヴィヒ・ヴィトゲンシュタインという表記になっている。いずれが正しいということでもなさそうだ。
「反哲学断章」は、ヴィトゲンシュタイン自身による、格好のヴィトゲンシュタイン案内である。と同時に、哲学畑のヴィトゲンシュタインしか見ない人を挑発しつづける本でもある。ここには、ヴィトゲンシュタイン通も飽きることのない、数々の原石が展示されているのだ。p239
短くて、切れ味のよいアフォリズムが続く。
メタファーの誤用がもっとも罪深いのは、どんな宗派においてよりも数学においてである。MS 106 58:1929 p23
天才のほうが、天才でない実直な人より、たくさん光をもっているわけではない。---だが天才は、ある特定のレンズによって、光を焦点にあつめるのだ。p105
考えようとすることと、考える才能があることとは、ちがう。MS 127 78v:1944 p128
じつは私は、たえず句読点を打つことによって、読むテンポを遅らせたい。ゆっくり読んでもらいたいのである。(私自身が読むみたいに。)MS 136 128b:18.1.1948 p188
哲学者たちよりもはるかに狂って考えたときにだけ、哲学者たちの問題を解くことができる。MS 137 102a:20.11.1948 p205
なんとなく、どこかで聞いたことのありそうなアフォリズムも多い。