Billiards
キューを振って先端のティップでボールに触れて転がす。
無造作にストロークする。
手ごたえに答えがある、と彼は言った。
ビリヤード台の角にたたずんだ紳士・・。
彼はとてもビリヤードが上手だった。
しかしいまは違う。バーのカウンターの椅子に腰かけて、
ビリヤード台になど見向きもせず、何かを喋り続けている。
バーテンダーは何もしゃべらずグラスを拭いている。
彼は、老いていたが、昔のままだった。
しかし、もう、ビリヤードはしない。
たとえるなら、起きぬけから酒の壜を手にし、
眠る時に壜を放すような男。
どうしてそんな男になったのかは僕にはわからない。
心に引っかかるものはあったが、
もう僕は、彼のことがあまり好きではない。
昔の彼とは冷たいビールを飲みながら、
ビリヤードをしたものだ・・。
「ビギナーズ・ラック・・」と彼は言った。
ビター・チョコレートみたいな低い、奥ゆきのある声で。
時折は、ウィスキーを飲みながら、粋なプレイを楽しんだ。
彼はそういう静かな時間に沁み渡る男だった。
いや、昔、そういう憧れの男がいたのだ。
眼を瞑ると、じれったいような、耳の味わい・・。
ヴィクトリア・シークレットの似合う女をうっとりさせ、
スウィッチ・ボタンと室内通話機を持った白髪のダンディが。
原画サイズ/特大サイズ
詩とArt_Works:
塚元寛一さん &KAMOME_STUDIO
画像素材: イラa。写a