カテゴリ:マーラー演奏会(2010年)
3月のインバル&都響、4月の金聖響&神奈川フィルに引き続き、今度は水星交響楽団(アマオケ)のマーラー3番をきいてきました。これほどの3番ラッシュは久しぶりで、実に有難いことです。5月1日土曜日、東京文化会館大ホール、同楽団の第43回定期演奏会でした。
指揮:齊藤栄一 アルト独唱:小川明子 合唱:オルフ祝祭合唱団 児童合唱:すみだ少年少女合唱団 管弦楽:水星交響楽団 水星交響楽団。いい名前です。宮沢賢治のセロ弾きゴーシュに出てくるオケが金星音楽団という交響楽団ですから、それにあやかったのでしょうか。金星よりさらに太陽に近い水星。略して水響(すいきょう)、これ「酔狂」に通じる、お洒落でアマオケにふさわしい素敵な略称ですね。常任指揮者の斎藤栄一さんという方が、「振っても書いてもしょせん酔狂」というご著書を書かれていると言うことです(^^)。プログラムによると、一橋大学管弦楽団出身者を中心としたオケということです。水響は17年前にも3番を演奏しているそうです。 さて土曜日の午後、仕事をなんとか早めに切り上げ、上野の文化会館に着いてみると、開場時刻よりずいぶん前なのに、すでに結構な行列ができていて、それがどんどん長くなっていきます。それで10分ほどの繰り上げ開場となりました。 もらったプログラムがまた良いです。団員の方が書かれた堂々5ページにわたる楽曲解説が素晴らしいです!歌詞もご自分で訳出していて、ニーチェ哲学との関連まで詳しくわかりやすく書かれていて、とてもためになります。そしてその解説の次には、「私のマーラー3番」と題して、独唱者と団員数名の方のこの曲への思いが書かれていて、今回1番トロンボーンを吹く方の熱い想いの文章などがあり、これもとても興味深いです。昨年の小田原フィルといい、今回の水響といい、こうしたこだわりと愛着が満載のアマオケのプログラムって、素敵です。 歴史と伝統ある東京文化会館の大ホール。ここは旧来型のホールで、舞台の後ろや横には座席がなく、広い1階と、2、3、4、5階の左右と後部の座席からなり、座席数2303席です。僕は1階に座りましたので上の方は良くわかりませんが、開演前にはほぼ満員になったのかもしれません。すごい盛況ぶり。 オケの配置は、弦は左から第一ヴァイオリン、第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスという通常配置。ベルは舞台上でした。舞台奥に合唱団用とおぼしき何段かの雛壇。そして独唱者用の椅子は、指揮者のすぐ左側に用意されています。この独唱者の位置は、以前は標準的な配置でしたが、近年は採用されることが少なくなっていて、久しぶりに見ました。 オケのみが入場し、声楽陣は入場せず、この状態で演奏が始まりました。アマオケらいし、いい演奏が続いていきます。トロンボーンソロは、このソロを吹くのがうれしくてたまらないという感じでパワー全開。途中(練習番号54)の舞台裏の小太鼓は、距離感充分です。また、冒頭のホルン主題のところのシンバルが二人だったのに対して、後半でこの主題が再現されるところでのシンバルは三人と、細かなところもしっかりこだわっています。第一楽章の後半は、オケにも勢いが出てきて、かなり立派な演奏でした。 第二楽章も、適度な歌心があって、良かったです。 第三楽章のポストホルンパートは、明らかにトランペットの音色でしたけれど、これも距離感充分で、ちゃんと遠くから聞こえてきたのが良かったです。後半ちょっと疲れが出たポストホルンを、応援しながら聴いていました。 第三楽章演奏途中の合唱団入場もなく、ごく普通に第三楽章が終わってから、合唱団が入場してきました。やはりこの入場方式が、一番無難な方法です。(これ以外の入場方法をとるのであれば、余程の目的意識、志、演奏水準を持っている必要があります。そうでないと先日の金聖響&神奈川フィルのような意味のない途中入場になってしまいます。)舞台奥の雛壇の下手側に児童合唱、上手側に女声合唱が並びました。 そして合唱団の入場が完全に終わってホールが静まり返ってから、独唱者がしずしずと入場しました。これは「拍手してください」と言っているような入場の仕方で、当然のように比較的大きな拍手がわき起こりました。指揮者も独唱者も拍手が起こることを良しとしている、というか、拍手がおこることを当然のこととして想定しているようにお見受けしました。。。このごろ、演奏者も聴衆も意識が高く、ここで拍手が起こらないでしんと静まり返っている演奏会が比較的多く、その場が引き締まるような感じで、とてもいいものです。やっぱりここは指揮者がそういう意識を持って、拍手を起こりにくくする工夫を少しでもしてほしいな、と思います。たとえば合唱団の入場と合わせて一緒に独唱者を入場させるということだけでも、拍手が起こりにくくなりますし。 さて第四楽章。この独唱は、深く、抑制のきいた歌唱で、素晴らしかったです。この歌に聴き入っているうちに第四楽章がすぐ終わってしまうように感じました。第四楽章の終わる少し前に、指揮者の合図とともに合唱団がすくっと起立しました。 第五楽章も、悪くないです。ところで独唱者は、ご自分の歌う部分が終わるとすぐに、すっと着席されました。これ、第五楽章のほぼ半分くらいのところです。これほど早い着席タイミングも珍しいです。合理的といえば合理的ですけど、何かちょっと違うような気も。。。それから合唱団の着席タイミングも書いておきます。第五楽章は立ったままで歌いきり、終楽章が少し進んでから、指揮者の指示で座るという、これも普通の方法でした。ただ、終楽章開始後、割合に早い時期に座らせ、それがすごく自然なタイミングの指示で、しかも皆さんが静かにすっと座ったので、音楽を妨げない、とても良い着席でした。 終楽章は、かなり速いテンポですすんでいきます。適度な歌があり、なかなか良い演奏ですが、もう一段の歌い込みが欲しい感じはします。オケは良く頑張っています。テンポ的にちょっとユニークだったのは、最後の盛り上がりが終わって鎮まっていくところ(練習番号30の後半あたり)、ここで一度、かなり歩みを遅めていき、そして最後のティンパニーの歩みのところでは再びテンポを速めました。(スコアには確かにそういう指示がありますが、それを極端に実行したという感じです) 演奏全体を通じて、アマオケとして立派な演奏でした。もちろん技術的にはいろいろな限界がありますが、アマオケとしてこれくらいの演奏を聴かせてくれれば充分でしょう。第一楽章後半の鳴りっぷりは相当なものでしたし、第二、第三楽章の指揮者の歌心、伝わってきました。そして第四、第五楽章は独唱者の力がオケを引っ張っていき、いい音楽を奏でてくれました。終楽章のテンポ設定が自分の好みとは異なりましたが、ひたむきなマーラー3番を聴かせてくださいました。ありがとうございました。 そしてカーテンコール。 ポストホルンパートを吹いた奏者の方が、トランペット、すなわちご自分の吹かれた楽器を持って登場しました。そう、この心意気が大切なんです!僕は思わず、より一層の力をこめて精一杯の拍手を送りました。ありがとう。これでこそ、これでこそ拍手喝采をおくる甲斐があるというものだし、奏者の方もその喝采を、晴々しい気持ちで受け止められたことでしょう。こちらも清々しい気持ちになりました。 ポストホルンパートで大切な事って実に沢山ありますね。 テクニック、スタミナ、音程、歌心。 音色、距離感。 そして何よりも、心意気。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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