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じゃくの音楽日記帳

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2010.05.31
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カテゴリ:演奏会(2010年)
5月21日すみだトリフォニーホールで、ドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」をききました。二日公演の初日。アルミンク&新日フィルの定期演奏会で、年1回行われているオペラのセミステージ形式の上演です。セミステージ形式とはいっても、毎回工夫された舞台設定で、かなり見応えのある上演をやってくれるこのオペラ定期、今回はどういう舞台になるのか、楽しみにしていました。この曲はCDでも聴いたことなくて、今回初めて耳にする音楽です。前日にウィキペディアであらすじだけ、にわか勉強して臨みました。架空の王国のアルケル王の孫ゴローが妻にしたメリザンドが、ペレアスと愛し合い、悲劇の結末へという物語。

演出良し、音楽良し、歌手良しで、大満足のオペラ上演でした。

演出:田尾下哲
ペレアス:ジル・ラゴン
メリザンド:藤村実穂子
ゴロー:モルテン・フランク・ラルセン
アルケル王:クリストフ・フェル
合唱:栗友会合唱団
指揮:クリスティアン・アルミンク
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

舞台の背後ほぼ全面に巨大なスクリーンが設置されています。その分舞台の奥行きは短くなっていて、オケはスクリーンの前に横長の長方形に並びます。弦は下手から第一Vn、第二Vn、Vc、Vaでコントラバスは後ろに横一列という変則配置で、ホルンが一番上手の前(客席側)に位置し、良く見えます。ハープ2台が下手奥。

序奏が始まると共に、スクリーンに映し出されたのは深い森の中。霧が立ち込める中に木々が仄かに浮かび上がり、それがゆっくりと横方向に移動していく神秘的な映像です。それにタイトルやら指揮やら出演者の名前が次々に映し出されていくさまは、ほとんど映画そのもの。映画館の大スクリーン上映を見ている感じです。それをバックに新日フィルが奏でるドビュッシーの音楽は密やかで精妙な響きで、いやこれは素晴らしい音楽です。この映像と音楽に、いきなり引き込まれてしまいました。

今回は舞台装置は何もなく、この巨大スクリーンに白黒の背景映像が映し出されるだけのシンプルなもの。この映像、オケの間奏的な箇所で森が映しだされるときはゆっくりと横方向に移動していきますが、それ以外は固定した映像です。でも単なる静止画像でなくて、たなびく霧、漂う蛍(?)、松明の揺らぎなどがたくみに表現されているので、不思議な臨場感があって、実に良くできています。ひたすら繰り返して映し出される暗い森の場面や、洞窟や、城の中の暗い部屋などが、登場人物達が置かれている閉塞した状況を良く現しています。唯一、第一幕の途中で、海を見下ろす小高い丘で遠くに城が霧の中に浮かんでいる画面が映し出され、ゆっくりとたなびく霧の動きから、風が海に吹き抜けていく広がりが感じられました。しかしそこでも、ゴローの母が、私はもう40年もここで生活していると歌い、この物語の閉塞性というか、霧と森に包まれたこの世界から逃れることの困難さを示していたのが印象に残りました。

歌手の動線は、スクリーンのすぐ前(つまりオケのすぐ後ろ)の少し高くなったところの横一線と、舞台の一番手前(オケのすぐ前)の横一線、この2つだけという、これもシンプルなものです。シンプルですが手前と奥と2箇所をうまく使い分けることで、充分な遠近感と緊張感が生じるという、巧みな舞台設定でした。

この演出、日本人ならではの幽玄の世界観をたくみに現し、それがこの作品の雰囲気と非常にあっていて、絶妙と思いました。演出が自己主張しすぎて音楽を妨げるようなことがなく、あくまで音楽に奉仕して音楽の効果を高めながら、結果として演出の存在感も際立つ。これぞオペラの演出でしょう。新国立劇場のトーキョー・リングの奇抜な演出と正反対です。

それにしてもドビュッシーのオペラがこれほど素敵な音楽とは知りませんでした。劇の展開につれて不可解さを増す登場人物の屈折した心理が、繊細な音色の変化で描写され、まったく弛緩するところがありません。なにしろ初めて聴く音楽ですので、演奏の特徴などはさっぱりわかりませんが、アルミンクにはきっと、このあたりの近代物がとってもあっているのだろうと思います。

歌手もみな素晴らしかったです。メリザンド役の藤村実穂子さんは、劇中の大半はうつむきがちで控えめな歌唱に徹しつつ、第三幕冒頭、城の塔で歌う無伴奏のアリアでは圧倒的な存在感をみせつけてくれました。このオペラの一番の聴きどころと思われます。

ペレアス役のジル・ラゴンという方の繊細な歌と味わいある演技にも、すっかり魅了されました。第三幕でペレアスへの愛を歌うところの内に秘めた情熱など、とても良かったです。この歌手は当初の予定からの代役で、チケットを買うときに係の人から「歌手が代わったけれどよろしいですね?」と念をおされたりしたので、あまり期待できないのかなと心配したりしましたが、無用の心配でした。

アルケル王を歌った方も、本来は日本人歌手の予定が直前に代役になった方ですが、優しく包容力ある感じが出ていて、陰鬱な劇の展開の中で、一服の癒しのような味わいの歌を聴かせてくれました。

メリザンドの夫ゴローは、メリザンドとペレアスの仲に疑念と苛立ちと怒りを大柄な体躯で激しく表現していましたが、粗暴さだけが目立って単調になってしまい、全体の雰囲気にややそぐわない感じを受けました。また声の乗りも今ひとつで、他の3人に比べるとやや不調という感じでした。

アルミンクは藤村さんを気に入っているようで、新日フィルのオペラ定期では2008年の「ばらの騎士」のオクタヴィアンに続いて、今回のメリザンド、そして来年の「トリスタンとイゾルデ」にもブランゲーネ役で登場する予定ということです。藤村実穂子さんのホームページで今年の活動予定を見ると、バンベルグとフィラデルフィアでマーラー3番、バイロイトでフリッカ役、バーミンガムでマーラー8番、ベートーヴェン第9をティーレマン/ウィーンフィルおよびシャイー/ゲヴァントハウスでと、目もくらむような予定が乗っています。日本でもこの秋にメータ/イスラエルとのマーラー3番が予定されていましたが、曲目が巨人に変更されてしまい、まったく残念です。

ところで蛇足ながら、ウィキペディアのペレアスとメリザンド(ドビュッシー)によると、デュカスのオペラ「アリアーヌと青髭」には、青髭公に幽閉された5人の妾のうちメリザンドと名乗る女性が登場し、ドビュッシーのオペラでのメリザンドが青髭公の城から逃げてきたと思わせるようになっている、という興味深い指摘がありました。なるほど、メリザンドが青髭公の城から逃げてきたという設定とすれば、トラウマによるメリザンドの屈折した台詞とふるまいが多少は理解できるような気がしますし、劇全体を包む閉塞感という点も「青髭公の城」と共通していて、なにか納得させられます。「青髭公」の続編として鑑賞するのもおもしろいな、と思いました。

今年4月、新日フィルのサントリー定期演奏会で、井上道義の指揮でバルトークの「青ひげ公の城」が演奏されたんです。そうかこのバルトーク定期は、今回の「ペレアスとメリザンド」への布石だったのかと、アルミンクの年間プログラミングの妙に感心しました。この井上道義の「青ひげ公」も、かなり良い演奏でした。できればその感想も忘れないうちに書きたいと思っています。





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Last updated  2010.05.31 21:09:30
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