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じゃくの音楽日記帳

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2016.11.14
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カテゴリ:演奏会(2016年)

メータ&ウィーンフィルを聴きました。モーツァルトとブルックナーの名品を並べた黄金のプログラムでした。

モーツァルト 交響曲第36番 リンツ
ブルックナー交響曲第7番

10月10日 サントリーホール

ブルックナー7番について書きます。両翼配置。ホルンは上手奥に2列で並び、前列4人がホルン、後列4人がワーグナー・テューバでした。ワーグナー・テューバの向かって左側(センター寄り)にテューバ、その左にトロンボーン隊という布陣でした。すなわち、ワーグナー・テューバとテューバを隣接させた、いい配置です。しかし謎だったのは、ワーグナー・テューバの向かって右側(上手寄り)の一番端に、空席の椅子が一つ用意されていたことでした。誰のための椅子なのか?わからないまま演奏が始まりました。

その演奏が、冒頭から実に素晴らしいです。メータは、ゆっくりめの足取りで、変な力みは全くなく、自然体で、特別なことは何もやっていないようです。それでいて、出てくる音楽は滅多に聴けない充実ぶりです。どこがどう凄いということは僕には全然わからなくて、ただ全ての音が、そうあるべきように鳴っている、としか言いようがありません。これはとんでもない演奏です。

第一楽章が終わったとき、隣席で聴いている長年来の友人と、お互いに黙ったまま、思わず顔を見合わせました。かつて朝比奈隆がここサントリーホールで都響を振った7番が、やはり特別なことは何もやってないのに、神懸かり的な演奏でした。その第一楽章が終わったときに、やはり彼と思わず顔を見合わせました。そのときのことを思い出しました。

第一楽章が終わると、テューバがおもむろに楽器を持って立ち上がり、舞台上手側にちょっと移動して、ワーグナー・テューバ隊の横(上手寄り)に置いてあった椅子に座りました。謎の空席は、テューバのためだったのです。しかし今回の配置であれば、テューバ奏者はもともとワーグナー・テューバの1番奏者に隣接していたわけです。そこからわざわざ移動して、ワーグナー・テューバの4番奏者の隣に位置したというこだわりですね、これには感心しました。

第二楽章も、全体にわたってゆっくりとしたテンポで、どこまでも自然体です。どこかのパートが個性的に強調されることはなく、どこかのフレーズが特別に際立って歌い込まれるということもありません。それでいて必要にして十分な音楽の響きが、自然な流れを持って、ただただ連なって進んで行きます。

個々のフレーズをとれば、はっとさせられるような凄みとか、恐るべき深みなどを、これまでこの曲の他の演奏から様々に体験してきました。そのような演奏に比べるとこの聴体験は、聴く人によっては、地味で物足りないと感じることもあろうかと思います。でもこの演奏は、そう言った個々の箇所に唸らされることは少なくても、音楽のゆったりした流れに、安心して完全に身を任せられます。大きな船に乗って、滔々と流れる広い河をゆっくりと下りながら、少しずつ変わってゆく美しい風景を見続けているような感じです。しかも、流れ去った風景、今見ている風景、これから現れるであろう風景、それら全部が、しかるべき意味を持って有機的に繋がっているんだなぁということが、まざまざと感じ取れるのです。そして聴き進むほどに、その実感がますます確たるものとなっていきます。極上のブルックナー体験です。

第二楽章が終わると、テューバ奏者は元の席に戻りました。そして第三楽章、第四楽章も、同じように自然体の充実した音楽が進んでいきます。自然体と言っても決して淡白ではなく、メータがところどころにちょっとしたこぶしを入れると、オケがそれに機敏に反応します。力を入れるべきところでは、充分に大きな力が入り、そこに無駄な力みが些かもありません。そのしなやかさと過不足のない充実ぶりは、聴いていて実に気持ち良いです。これは本当にすごい。

これまでメータのブルックナーはほとんどノーマークでした。まさかこれほどのものが聴けるとは思いもよりませんでした。一方ウィーンフィルのブルックナーは、これまでメッツマッハーの振った9番を聴いただけで、そのときはワーグナー・テューバの渋い響きにとても魅了されましたが、音楽内容としてはこれほどの高みには全く達していなかったです。今日のこの驚くべき音楽は、メータの内的充実とともに、そのメータとウィーンフィルがいま、厚い信頼関係にあるからこそ生まれてくるのでしょうか。僕がウィーンフィルを聴いたのは僅かな回数にすぎませんが、その中でダントツに抜きんでて素晴らしく、ウィーンフィルの真価を初めて体験できた、と思いました。

ワーグナー・テューバは、絶美で、完璧でした。このところ日本のオケのワーグナー・テューバも随分上手くなっていますが、それらと完全に一線を画する次元でした。そしてもちろん、ウインナ・ホルンの渋いくすんだ響きも絶品でした。ともかくウィーンフィルはのびのびと自由に、リラックスして、普段どおり普通に弾いている、という感じでした。第三楽章のトリオの途中では、ホルンだかがブオッと聞き慣れない音を出してちょっとびっくりしました。達人の遊び心?

ついに最後の残響が消えると、その後の静寂も少しですがきちんと保たれました。メータが指揮棒を下げる前に拍手がパラパラと始まってしまったのがちょっとだけ残念でしたが、あまり気になりませんでした。もしかしたら今日の演奏が、終演後に長い静寂を厳格に求めるような性質のものではなかったからかもしれません。

そしてその後に沸き起こった会場の拍手喝采はもちろん大きかったし、メータの呼び戻しもありましたが、熱狂的というほどのものではなかったように思います。メータもオケも、普通にお仕事し終わったような、「ウィーンではいつもこういう風にやっているんだぜ」というふうな、普通の感じで帰って行きました。しかし今日の演奏は、少なくとも僕にとっては、かなり稀にしか遭遇できないほどの充実した感動体験となりました。地味だが、あるべきように音が響き、余分なものがない、そういうブルックナーでした。

メータはとてもお元気そうでした。プログラム2曲とも、暗譜で譜面台を置かないだけでなく、指揮台の後ろに手摺りさえつけず、最初から最後までどこにもつかまることなく、しっかりと振っていました。メータさん、またこのような音楽を、僕たちに聞かせてください。






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Last updated  2016.11.16 00:22:28
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