柏市って千葉の渋谷なんて言われたりしているようなのですが、それはもっぱら柏駅周辺のみを指して言われているだけで、柏市内には鉄道路線及び駅は3路線11駅-JR常磐線(柏駅・北柏駅・南柏駅)、東武アーバンパークライン(柏駅・豊四季駅・新柏駅・増尾駅・逆井駅・高柳駅)、つくばエクスプレス(柏の葉キャンパス駅・柏たなか駅)-あって、柏駅以外はいずこもかなり寂れた印象が目に付くと言わざるを得ないような状況です。しかも東武線の北側一帯、お隣の白井市に至る広大な土地は鉄道どころか路線バスすら通っていないようで―ざっくり調べただけなので本当はコミュニティバスなどが運行されているかも―、公共交通機関以外の中長距離の移動手段を選び得ぬぼくのような者にとってはまさに未知のエリアなのです。そうした公共交通機関の空白エリアにこそ柏の酒場の神髄が潜んでいるような気がしてならないのです。具体例がパッとは思い当たらないけれど、例えば埼玉であれば鴻巣と東松山の中間、吉見町のようなエリアにぼくが愛してやまない酒場があったことを想起してしまうのです。吉見には路線バスが通っていたからまだしものこと、都内からそう遠くない柏市でもこれほどまでの秘境があるのだから、ぼくのなけなしの冒険心ですらざわつかしてくれるのです。というか誰も知らない―というのは部外者が知らないの意味であることは断るまでもない―酒場で呑んでみたい、できることならそこが記憶に留めたくなる追うな素敵な酒場であったらなおのこと嬉しいと思うからであります。所謂ところの陸の孤島-ことあるごとに書いているけれど、孤島の意が、絶海の孤島という言い方があるように陸地や他の島から一つだけ遠く離れている島を指すのであればあらゆる意味で矛盾を孕んた呼称に思えます-への期待と憧れを失わぬうちにしっかり楽しませてもらいたいのです。遠からず訪れるであろう公共交通機関が激減した時代になれば当然のことにそこらじゅうがそうした土地になるのですね。
さて、ともあれ現在の柏市は空白地帯もあるけれど東西南北に鉄道が通っているからまだしも便利といって良さそうです。駅を背にして豊四季駅方面に進みます。千葉県下で三本の指に数えられもするらしい県立高校を横目に通り過ぎしばらく行くと、鰺のあるボロ酒場長屋が視界に入ってきました。おお、こりゃすごいじゃないかと興奮して近寄るけれど営業しているのはどうやら「スナック マーレ」だけのようです。一瞬ここでもいいから入っておこうかと迷いましたが、迷ったのが災いしてスルーしてしまいました。今になってモヤモヤと失敗したなあって思うのだから、こういう場合は迷わぬが勝ちであることをまたも悟らされるのでした。そこで引き返せばいいもののまだもう少しと歩いて行くと酒場らしい看板はあるけれど、近寄らないと見つからないほどに目立たぬように奥まったところに入口がありました。「居酒屋 くつろ木」といかにもありそうな店名のお店です。入ってすぐに小上がりがあってその奥にカウンター席のあるちょっと特殊な造りのお店です。そこそこいい時間ですが他にお客さんはいません。居酒屋というよりは食堂風の食事メニューが充実しています。まあ、栄食は単品でももらえるので合理的な営業方針ではあります。料理は悪くはない者の特別堂ということはありません。値段もほどほどです。と特に目立ったところはありませんが、しばらくするといかにもご近所さんといった寛いだ格好をしたおじさん、おばさんが集まり出して小上がりに自分の家のように上がり込みます。勘定の際には店主夫婦も一緒になって寛いでいたりして、いかにも郊外の酒場といった感じでこれはこれで悪くない雰囲気でした。