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今ではちっとも陰惨さや不気味さとは無縁となった三河島でありますが、江戸川乱歩著『妖虫』が執筆された1933~34年当時は、やはり小説で描かれるような危ない雰囲気が町を支配していたのでしょうか。
そこは竹藪が一間程の間途切れて、その向う側に、枕木の見える汽車の線路が長々と横わっているのが眺められた。三河島と云えば、大宮方面への鉄道の沿線に当るのだから、突然レールに出くわしても、別に不思議はないのだが、珠子には、なぜかその鉄道線路さえ、現実のものではなくて、悪夢の中の光景の様に感じられた。 無論、彼女を恐れ戦(おのの)かせたのは、鉄道線路そのものではなく、その線路の上に飛び散っている数個の白い物体であった。 電燈の丸い光が移動するにつれて、人間の手が、人間の足が、人間の腿が、その切口をドス黒い血潮に染めて、次々と彼女の脅えた眼に。 ねっ、なかなかに奇っ怪なことではありませんか。 『赤蠍』。『赤蠍』を知らん人はありますまい。あの妖虫が、又ゴソゴソと這い出して来たのです。 三河島の見世物小屋で、活動写真みたいな活劇が演じられたのです。そして、相川珠子という美しいお嬢さんが、妖虫の為にさらわれてしまったのです。ごらんなさい。これがそのお嬢さんの写真ですよ」 赤蠍と聞くと、今までざわめいていた群集が、ピッタリと静まり返った。それ程彼等は妖虫事件の新聞記事に脅えていたのだ。 この事件を解決するのは、お馴染みの名探偵明智小五郎ではなく名探偵三笠竜介ということで余り知られていない作品ですが、乱歩らしい耽美性とグロテスクさがこの一節を見ただけで明らかです。こういうの流し読みしているとすぐにでも読み返してみたくなるなあ。 ![]() ![]() ![]() ![]() と本題とは全く無関係な引用をしてしまいましたが、今回訪れたのは現代の三河島としては怪しいムードを辛うじて留めている路地裏のさらに路地裏的な立地にある「陽子江」です。怪しいとはいってもテレビなんかにも登場しちゃったりして。ぼくが以前来たのはもう10年以上前のことのようです。その時には、ご近所の爺様たちの溜まり場のようになっていてねえ。なんてことを思いつつ店に入るとなんとなんと以前と変わらず長老たちが横並びに3名いらっしゃる。確認する術はないけれど、10年前の彼らがそのまま毎夜通っていると言われても驚く程の事はなさそうに思えてきます。まだ席に余裕はあるけれど、2階が広いのでどうぞと案内されたので、もしかしたら常連仲間がまだ来るのかもしれないというのもあるけれど、それ以上にこの狭いと思っていたお店に2階があることを知ったら無性に見てみたくなったのでお言葉に甘えることにしたのでした。確かにこの急峻な階段はご老体には危険極まりないと思うのですが、ぼくら(S氏と一緒)だってまだまだ先のことと思っていたら案外目先の事であったなんてことになりかねぬのだ。2階はそう造りが変わるはずもないのに案外広く感じられます。ダムウェーター(飲食物の昇降用エレベータ)まで設置されているけれど、そうは活用されていなさそう。これがあっても年配の人にとってこの階段の上り下りは大変そう。ご心配なく、笑顔を絶やさぬ若い娘さんがお勤めです。無駄口を叩くこともなくかといって不愛想とは程遠いという理想的な応対で、しかも動作もテキパキとしていてここの娘さん、いやお孫さんなのかなあ、そうじゃなきゃここまでの応接は期待できないと思うのです。さて、そうそうこちらはお通しがお刺身だったよね。餃子を始めとした料理は普通に美味しくて酒は中華屋さんとしては適切な価格(希望としては酎ハイは400円を350円にしてくれると大いに結構)で、確かにここを根城にするご隠居たちが多い訳だ。ところで店の貼り紙にもあるけれど、こちらは「揚子江」ではなく「陽子江」なのでくれぐれもお間違いなく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023/11/27 08:30:09 AM
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