埼玉高速鉄道に乗って呑みに行く。ずっと機会をうかがっていながらなかなかあ実現できずにいました。若い頃には、とある用事があって何度か乗車していたけれど当時はまだ呑み歩きの趣味はなく、ただただ用事を済ませるのみに腐心して、付近を散策するような余裕はなかったのです。ところで鳩ケ谷といえばすぐに思い出すのは小谷三志のことです。散歩好きの人なら一度は試みたであろう富士講巡りの話をすればこの名に思い当たる人もおられるかもしれませんが、中里介山の未完の大長編小説『大菩薩峠』 の「恐山の巻」で「鳩ヶ谷の三志様という人は、武州足立郡鳩ヶ谷の生れの人であって、不二講という教に入って、富士山に上り、さまざまの難行苦行をした」とあります。この小ネタがこの後のお話にどう繋がっていくか、期待をしてはいけないのだ。たまたま知っていたからその知識を補強して物識りぶってみただけのことなのです。それはさておき実は明日も乗り換えなしに埼玉高速鉄道に乗り入れ可能な場所に出張なのでありますが、きっと行かないんだろうなあ(改めてメモを調べるとこれを書いた翌日は休業日でありました)。
さて、すでに2軒巡ってそれなりにいい気分になっていますが、せっかく高い電車賃を払って来たんだからと欲張ってもう一軒だけ寄り道していくことにしました。せっかくだし駅の反対側に行ってみようと思い立ちました。駅の北側を経由していったんですが、ほんのわずかながらアーケードも残っていて、かつてはそこそこ酒場が立ち並んでいたんじゃないかって雰囲気を留めているのですが、留めているのがあくまで雰囲気だけだから仕方がない。しばらくなるべく駅から遠ざからぬように散策を続けるのですが、なかなかここぞという酒場に行き当たることはなかったのです。案外車通りも多くそうした道路を歩いている限りは大型の店舗があるばかりでつまらぬから、そうした表通りの裏手に回り込むのですが、やはりほとんどは住宅なのです。諦めかけたところで「炭火串焼 髙」という酒場に行き当たりました。周辺にも閉まってはいるけれど酒場の痕跡が数軒軒を連ねていたからこの界隈もかつては酒場が立ち並んでいたのでしょうか。そうした疑問は吞み込んで店内へ。長屋の築年数はかなりのものに見受けられますが、こちらは改装済みのいかにも若い人の酒場ってムードです。女性客が若い主人を相手にお一人で呑まれています。随分とくだけたやり取りをしているので、かなり頻繁に出入りしているようです。そのうちに一人また一人とお客さんがやってきます。近くにボーリング場があるようで、ご主人もそこに通っているようでボーリング繋がりの客が多そうです。それこそボーリング帰りのお客さんが、一杯だけ呑んで帰ると宣言しながら店に入ってきたりして。酒場には一見客には徹底して冷ややかな店とあっさりと輪に加えてくれる店があって、こちらは後者でした。すぐに会話に引き入れてくれるのですね。それがなければ、ちょいと値段が高めの設定だから一軒でで軽く呑つもりだったんだけどなあ。記憶違い鴨でなければ、こちらの店舗、昔は駄菓子屋だったということで、店主も子供の頃はよく寄り道をしておられたみたい。近くには他に酒場もないからつい立ち寄ってしまいたくなる客も少なくないんでしょうね。