テーマ:読書(8206)
カテゴリ:読書
これは芙蓉の花の形をしてるという湖のそのひとつの花びらのなかにある住む人もない小島である。 この山国の湖には夏がすぎてからはほとんど日として嵐の吹かぬことがない。 (略) 簑笠(みのかさ)をつけた本陣に船頭をたのんでひどい吹きぶりのなかを島へわたった。 これから私の住居となる家は年に一度の祭礼に遠方からくる神官の泊るために建てたもので、 羽目板はめいたはところどころずり落ち雨戸もまだついていないゆえほんの雨つゆのしのぎになるばかり、 夏が過ぎればすぐ冬になるならいの山国の湖のなかにただひとつ浮いて出たような この島をめがけて周囲の山やまからおしよせてくる寒さをこの都人に防いでくれるほどの用にも立たない。 世を捨て、島にひとり住む私に、「本陣」という屋号の男がなにくれと世話を焼いてくれる。 本陣が鉈(なた)と鋸に豆板、頼んでおいた鰹節と池田さんからことづかった香煎をもってきて 餅は焼いてばかりたべずに雑煮にするがいいといって大きなひね茄子を二つ袂から出した。 両手にあまるほど肥えて石みたいに堅い。 麹が少いからまずかろうけれどと小さな瓶から味噌を。 そしてまな板がわりに拾ってきた板のうえへ鉈で鰹節をかいてくれたが私は雑煮は今度のことにして餅を焼いてたべる。 かようにしてこの侘住居には不相応な珍味のかずかずがそなわった。 玉子も笊に十ほど、葱が一本、はぜもろこしも残っている。 今やこのソロモンの富を得た島守はこれらのものをどういう順序に腹のなかへしまい込もうかについてすくなからず苦労をする。 この物語は、中勘助が1911年と1912年に野尻湖に浮かぶ弁天島にこもった時の日記がもとになっているという。 中勘助の代表作に「銀の匙」があるが、1912年に野尻湖畔の農家にこもって書いたという。 この作品も同じ頃のものだろう。 ■雨蕭蕭■永井荷風 同じ本に収められているのが、永井荷風の「雨蕭蕭」。 「雨蕭蕭」の中には、漢詩が出てくるわ、フランス語の詩が出てくるわ・・・。 日本の近代化に反発し、江戸の昔を憧憬した荷風。 彼が愛したのは、「ひとり歩き」と「ひとり暮らし」。 都市生活者のライフスタイルを先取りしていた荷風。 荷風の作品を読んだのは、はじめてだが、趣味人であり、教養人だと知っていた。 主人公には、成金ではなく、金持ちの友人がいるが、彼との手紙のやり取りは、全て候文。 本の中に 道楽は若い時に女。 中年に芸事。 老いては普請、庭つくり。 とあり、この友人は、全てやっているようだ。 荷風も普請、庭つくりは、どうか分からないが、花柳界に入りびたって、二度の離婚歴があるので、若い時は道楽をしたようだ。 ■寺田寅彦■ ●この本を読むときは、難しい感じや旧仮名遣いに大変だと思いながら読んだ。 読後、今どきの軽いものを読もうとして、物足りなさを感じ読むのをやめた。 にほんブログ村 ・・・・・・・・・・・・・・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[読書] カテゴリの最新記事
|
|