計量計測データバンク ニュースの窓-82-
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計量計測データバンク ニュースの窓-82- 日本銀行における金融政策決定の動きと経済・物価情勢を探る
植田総裁会見 日本銀行2023年7月28日に政策委員会・金融政策決定会合で経済・物価情勢の見通しを示す(計量計測データバンク編集部)
写真は植田和男(うえだかずお)日本銀行総裁
日銀は、7月27日と28日の2日間開いた金融政策決定会合で金利操作の運用を見直し、これまで0.5%程度としてきた長期金利の変動幅の上限を、市場の動向に応じて0.5%を超えることも容認し、金利操作をより柔軟に運用することを決めた。
植田和男(うえだかずお)総裁は、長期金利の上限について「ここまでの足元の長期金利の動きを見ると、0.5%を下回る水準でわずかだが推移してきている。今後、仮に0.5%を超えて動く場合には長期金利の水準や変化のスピードなどに応じて機動的に対応することになる」とし「長期金利1%までの上昇想定していない 念のための上限」と説明した。日銀の低金利政策の基本は変わらないもののGDP、物価の上振れが続いている中で、もしもの事態への対処と円安是正のための措置としている。2023年度の消費者物価指数の見通しをプラス2.5%に引き上げている。
日銀の日本経済の現状への見立て
日銀の経済の現状への見立ては次のとおり。日本経済の先行きを展望すると、当面は、海外経済の回復ペース鈍化による下押し圧力を受けるものの、ペントアップ需要(抑えられていた購買行動が景気回復期に一時的にに回復すること現象)の顕在化などに支えられて、緩やかな回復を続ける。その後は、所得から支出への前向きの循環メカニズムが徐々に強まる状況下で、潜在成長率を上回る成長を続ける。消費者物価は、中長期的な予想物価上昇率や賃金上昇率も高まっていき、再びプラス幅を緩やかに拡大していく。経済成長率は、2023 年度は大幅に上振れているが、2024 年度と2025 年度は概ね不変である。2023 年度は下振れリスクの方が大きいが、その後は概ね上下にバランスしている。物価のは、2023年度と2024 年度は上振れリスクの方が大きい。
28日の東京株式市場日経平均株価は一時、500円以上値下がり
7月28日の東京株式市場は日銀が今の金融緩和策を見直すのではないかという見方が広がり、外国為替市場で円高ドル安が進んだことなどを受け、日経平均株価は大きく値下がりした。東京市場では、取り引き開始直後から輸出関連など幅広い銘柄に売り注文が広がって、日経平均株価は一時、500円以上値下がり。日銀の金融政策決定は株式市場並びに外国為替市場が敏感に反応する。0.5%を超えることも容認するも1%以下に抑えるという政策決定は金融の政策を大きく変えるものではないために市場はその後、平静を取り戻している。GDPと物価の上昇が2%を越えてこれまでのデフレ状況に変化が現れている。ロシアとウクライナの紛争による資源価格などの上昇、そしてコロナ災害からの脱却の過程という二つが要因によるようだ。
植田総裁 金融政策会合決定の内容を説明
植田総裁の説明は次のとおりである。
賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定の目標の持続的安定的な実現を見通せる状況にはなっておらず、イールドカーブ・コントロール(企業や個人がお金を借りやすい環境を作るために、長短金利を低く抑え込む政策)のもとで粘り強く金融緩和を継続する必要がある。経済・物価をめぐる不確実性が極めて高いことにから、この段階でイールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化し上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることが適当であると判断した。粘り強く金融緩和を継続する必要がある。
物価の見通しについて。当面はインフレ率が下がっていき、どこかで底を打ってまた上がってくるという見通しを持っているが、自信がない。基調的な物価上昇率が2%に届くというところにはまだ距離があるという判断は変えていない。
今回の措置について、長期金利の形成を一定程度市場に委ねるものなのかというと、基本的には程度の問題はあるがイエスだ。経済物価情勢が上振れた場合にそれを反映する形で長期金利が上がっていくことについては0.5と1の間でそれを認める。イールドカーブ・コントロールを完全に自由にするなら、これの撤廃に近いが、そうではなくてスピード調整などを入れつつ、根拠のない投機的な債券売りのようなものがあまり広がらないような形でコントロールをしつつ、ベースとしては市場の見方がもう少し反映される余地を広げようという措置だ。
金利のあるべき姿については、現状で金利が1%に到達するのが適当とは考えていない。今の物価の見通しから上振れた場合やリスクが顕在化した時に、長期金利が0.55%を超えて上昇する余地を前もって作っていこうというための修正ないし柔軟化だ。0.5と1の間でそれを認めることを、なぜ今やるのかというと、そういうリスクが目に見えてきたところでやろうとすると極めて副作用が強くなる。それを避けるために前もって手を打っておこうということだ。
長期金利の上限をさらに引き上げる可能性について。長期金利が1%に迫ってきた時にさらに上に調整する可能性があるかについては、そのときの物価経済情勢次第でどうするかということを改めて考える。
マイナス金利の扱いについては、基調的なインフレ率がまだ2%に達していないので、マイナス金利をそこから引き上げて短期の政策金利を引き上げていくというところには、まだだいぶ距離がある。
為替の変動について、日本銀行としては為替をターゲットとしていない。金融市場のボラティリティー(価格変動の度合いを示す言葉)をなるべく抑えることに含めて今回は為替市場のボラティリティーも考えている。
物価見通しが上振れし続けているのは、インフレ期待が変わってきたとか、物価、賃金設定のノルム(規範 規準 法則)が変わってきたとか、そういうことが少しずつは起こってきて予想を超える物価上昇につながっている。今後はその点について、もう少しきちんと見ていきたい。
2023年度物価の見通しプラス2.5%
日銀は7月28日の会合にあわせて3年間の物価見通しを公表し、今年度の消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で、前の年度と比べてプラス2.5%と、前回・4月に示したプラス1.8%から大きく引き上げた。一方、2024年度はプラス1.9%と前回より引き下げ、2025年度については前回と同じプラス1.6%。
植田和男(うえだかずお)日本銀行総裁
生年月日 昭和26年9月20日
出身地 静岡県
任期 令和5(2023)年4月9日~令和10(2028)年4月8日
履歴
昭和49年3月 東京大学理学部卒業
昭和49年4月 東京大学経済学部入学
昭和50年4月 東京大学経済学部大学院入学
昭和51年9月 マサチューセッツ工科大学経済学部大学院入学
昭和55年5月 マサチューセッツ工科大学経済学部大学院卒業(55年9月Ph.D.取得)
昭和55年7月 ブリティッシュ・コロンビア大学経済学部助教授
昭和57年4月 大阪大学経済学部助教授
平成元年4月 東京大学経済学部助教授
平成5年3月 東京大学経済学部教授
平成10年4月 日本銀行政策委員会審議委員
平成12年4月 日本銀行政策委員会審議委員(再任)
平成17年4月 日本銀行政策委員会審議委員退任
平成17年4月 東京大学大学院経済学研究科教授
平成29年4月 共立女子大学教授
令和5年4月9日 日本銀行総裁