嘘が見える僕は、素直な君に恋をした
嘘が見える僕は、素直な君に恋をした【電子書籍】[ 桜井美奈 ] 悲恋だが悲恋でないのは最終章でわかる。 これがこの作家の大きな特徴だ。 恋愛に嘘はつきものなのかもしれないけれど、聖が厄介なのは、好きな人の噓が見えるということだ。 見えるというよりは、好きな人が嘘を言った瞬間、その人がキラキラして見えるのだとか。 それでいつの間にか一人ぼっちになっている。 それでもその聖に近づいてくる女の子は双葉。 その子の嘘も見えるようになるが、読み手もまた聖を通じて嘘と勘づいて、その嘘が実は重要な事実を指摘していることに気付いてしまうという、小説にしては実に精緻な仕掛けが施されているのだった。 いよいよこの作家の安定性を感じてきたな。 この調子で何か大きな賞を取ればまたその価値が上がるのだろうがね。 この二人の間の猫二匹の役割も実に憎いですなあ。 特に、ニャーなんか本当に人の言葉を理解しているような風情だものな。 そこのところの人なり猫なりの使い方が実に細い上に上手だというのが私の評価だ。 私なんざあ、聖の見ている風景が脳内にまざまざと描かれていたものな。 これは何より桜井美奈という作家の類まれなる文章力のなせる業だと思う。 口に入れたらすっと溶けるスイーツのような書き味。 文章に味があるとすればそんな表現になりそうだ。 ただ、悲恋を読めば号泣の私が今回かなりドライだったのは、彼女の病名がわからぬまでも、尋常ならざる病に罹患しているということが最初から推定されていたからだ。 桜井美奈はフェアだもの。 何しろ小説の中で叙述を使用したら、それこそそれが嘘だと、全部みろっとめろっとお見通し状態になるもの。(9/8記)