サハラの薔薇
サハラの薔薇【電子書籍】[ 下村 敦史 ] 下村は、昭和56年生というから、東野のちょうど子の世代ということになる。 乱歩賞の闇に香る嘘も読んでいたが、記憶の片隅にもその話は残っていない。 前読コープス・ハントそして本作を読むと、下村がただならぬ作家だということに気づく。 ミステリーとして読むと、サハラ砂漠におけるシーンがあまりにも長くて、これじゃあ飽きてしまうよ、なんて思いながら読了したけれど、話の冒頭に張った伏線が後に実に巧妙に真実に迫るという仕掛けなのだった。 私は、ミステリーリーダーなので、本は内容がミステリーであるとうい前提で読んでしまうのだ。 その結果発見したのは棺に入っていたのはミイラじゃなくて死体じゃないのかなどと推理していたら、それは大当たりでしたな。 結局この死体は、エジプトの然るべき役所から盗まれてしまってそれっきり。 そこからミステリーに発展することはなかった。 結局我々が追い求めているミステリーよりはもっと大きな天下国家の問題になるのであった。 私のような文系人間には全く理解不能な天然原子炉という概念が飛び出し、それが今サハラにあるんじゃないかという話になって、でもその天然原子炉は、ウランの半減期から考えると、存在するわけがないという論理、つまり地球が太陽の周りを回っているのと同じ事実だと指摘されることにより、読み手ははっと目を覚まさせられる。 こんな話は、理系人間には全部みろっとめろっとお見通し状態だったろうな。 解説では、本作は冒険小説に分類され、5作に1作はどうか冒険小説を書いてください、なんて書いてあった。 あたしゃあ、ミステリーリーダーとしてやっぱり下村のミステリーが読みたいな。 まあ、彼という存在に気づいたのはつい最近の話だから、あまり気の利いたことはかけないけれど、どうかKindleUnlimitedにたくさん所収してほしいものだ。(12/24記)