「秘密と嘘と民主主義」
ノーム・チョムスキー 田中美佳子・訳 2004/7 原書1998
身近にこのような、なんでも教えてくれる「親切なおじさん」がいたらいいだろうなぁ。すべて正しいとは言いがたいが、なにか考えていて、よくわからないナァ、と思ったら、まずおじさんの意見を聞いてみる。おじさんなら大体なんでも知っている。そして気の利いたアドバイスをしてくれる。最初からなんでもかんでも聞いてしまうと、これは全部物まねになってしまうし、こちらの考える力が減退してしまう。でも、いろいろ考えてみて、どうしてもわからないことがあったら、聞いてみよう。そして、その意見を参考にして、自分なりにもう一度考えてみよう。
そんな思いにさせてくれる一冊。デビッド・バーサミアンという人が行なった一問一答式のロングインタビューがもとになっている。もちろん、インタビュー後に、丁寧に手が入れられていることは間違いない。だけど、その問い自体が非常にわかり易く、関心のあることなので、ついつい読んでしまう。さすが、アメリカの良心だ。
チョムスキーについては、ちょくちょくこのブログでも読んできたが、岡崎玲子との対談との対談のように、わかり易く、また、安心してその話を聞いていられるという不思議な魅力を感じる。この人、本業は言語学者、ということなので、いずれは、こちらのほうの仕事にも触れてみたいと思う。
この本は日本語訳は2004年にでているが、原書は1998年にでているので、インターネットの捉え方が、まだ当時のままだし、ましてや2001年9月におきた、いわゆる9.11にも触れていないので、逆にわかりやすい、と言えるのかもしれない。
マリファナは人びとのためになるか、ならないかといった議論は可能だが、少なくともマリファナの常用者が6千万人いるなかで、あやまって致死量を服用したという話は聞いたことがない。マリファナの使用を犯罪あつかいする背景には、薬物の取締まり以外の目的があるのだ。p041
子供のころの私は、フィラデルフィアの中心街にある公共図書館に入りびたっていた。まったく申し分のない図書館だった。つねづね私が引用している無政府主義や左翼マルクス主義の型破りな文献は、すべてこの図書館で読んだものだ。p083
インターネットは真剣に考慮されるべき技術だ。ただし他の技術と同様、インターネットも多くの可能性と危険をはらんでいる。「ハンマーは良いものだろうか、悪いものだろうか」という質問は意味がない。大工の手にかかればそれは役に立つものだし、拷問者の手にかかれば悪用される。インターネットも同じだ。さらにインターネットが良い目的に使われたとしても、それだけですべての問題が解決できるわけではない。p226
一問一答、それぞれに面白いが、難点といえば、そのほとんどがアメリカ的社会からみる世界観について語られていることだ。それでも、中丸薫的な世界観に引きずられるよりもましかな、と思う。日本人でこのようなおじさんがいればいいのにな。