大田区で生まれ育ち、ずっと旋盤の仕事をしてきた男の回想録。
町工場というものを通して、町のあり方まで目を向けている。「さすが職人」と感心するような心の持ち方をしている。
文章は非常にうまい。凝った文章もある。文芸同人誌に参加していたくらいだから、文章を読むことも書くことも好きなのだろう。
もっとも感心した文章。
「町工場を渡り歩く職人は、ゆるやかな渦を巻いて流れたが、どこかの杭にひっかかっては新しい技能を身につけ、工場世界についての見聞をひろめて、また杭を離れた。」(p135)
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朝日新聞社版を読んだが、現在は品切れ。岩波書店から出ている)
大森界隈職人往来(著者:小関智弘|出版社:岩波現代文庫)