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木下惠介 DVD-BOX 第1集所収。
冒頭に、 「松竹映画」 「昭和十九年十一月完成」 とでる。 「画映竹松」 「成完一十年九十和年」 ではない。「横書き」という概念で書かれている。 さて、制作年からわかるように、戦争中の作品である。 国策映画なのだが、どう見ても反戦映画なのには驚いた。 遠い昔、この映画を見た、映画に詳しい人から、これを見た軍部は激怒したらしいと聞いたが、さもありなん。 話は慶応二年の九州小倉から始まる。 藩士から「大日本史」を預かった一家の息子が中心になって話が進む。 死を決意した藩士が訪ねてくる場面がある。その藩士は、刀の柄が左肩にくるように背負っている。このころまでは、ちゃんと、そう背負っていたのだ。 いつから、右肩に柄がくるように背負い始めたのだろう。 吉川英治「宮本武蔵」の挿絵でも、佐々木小次郎は刀の柄を左肩に出している。 NHK大河ドラマの「武蔵」では、さすがに武術指導がしっかりしていて、松岡昌宏演じる小次郎は、柄を左肩に出していた。 それはさておき。 「兄弟牆に鬩ぐ」などという難しい言葉が出てくる。 「けいていかきにせめぐ」と読んで、兄弟げんかや味方同士の争いを言うのだそうだ。 話はすぐに30年後に飛び、日清戦争。 主人公は、宮城《きゅうじょう》や靖国神社を見学していて父の死に目に会えない。 そしてすぐに明治37年に。 日露戦争。 主人公(笠智衆が青年だ!)は出征はしたが、病気のために全戦に出ることができず、悔しい思いで帰郷。稼業の質屋の経営にも行き詰まり、借金を清算して出直すことを決意。妻は田中絹代。 またとんで10年後。 小さな荒物屋を妻に任せ、笠智衆はぶらぶらしている様子。折に触れ、「大日本史」を読んでいる。 この「大日本史」が精神的支柱となっているらしい。 「大日本史」は、現在の皇室の祖先である持明院統ではなく、大覚寺統(南朝)を正統とした史書である。 息子が二人。長男には立派な軍人になって欲しいのだが、いくじなしで困る。 東野英治郎の経営する工場の若者で組織した「奉公団」の講師になる。 ここでまたとんで10年後。 いよいよ風雲急を告げ、日中戦争に。 主人公の息子も、東野英治郎の息子も入隊。それぞれ、前線に出て戦死することを望むような態度を見せているのだが、東野英治郎は前線の話を聞くと息子のことばかり気にする。 前線に行き遅れた、主人公の息子もいよいよ出征というのがクライマックス。 行軍の中から息子を見つけ出そうとする田中絹代。 やっとみつけ、行軍と平行して走りながら息子に話しかける。 息子は笑顔で答える。 最後は、群衆の中で、茫然と涙で見送る母、というところで終わる。 頑固な愛国者という設定の東野英治郎は、「元寇の時、神風が吹かなければ、軍事力で劣っていた日本は負けていただろう」と言ったり、息子の生死を気にすると、「お前の息子一人ぐらい死のうが生きようが関係ない」と言われたり。 「男の子は天子様からの預かりもの」と口では言いながら、本音は、子を戦地にやるのは嫌だ、死なせたくない、と思っていると言うことを描いているのである。 こりゃあ、軍部は怒るだろう。 戦意高揚になんかなりゃしない。 「戦争ハンターイ」と叫んで満足するような映画ではない。 制約があっても、良心に恥じない映画を撮ろうという、監督の志が感じられる映画であった。 楽天ブログランキング←よかったらクリックしてください お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.12.02 05:47:30
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