カテゴリ:ドクターのつれづれ。
10年以上前、当地で歯科医院を始めた頃、
90歳を越えているにもかかわらず、 かくしゃくとしていて、とても90歳には見えないおじいさんが 当院にお見えになりました。 どうされたのかと尋ねると、 ご飯に石が入っていて、歯が欠けたので、どうにかしてくれ、、 ということでした。 当時は普通の歯医者でしたので、 何のためらいも無く、通常の方法にしたがい、多少削って、 インレー(金属の詰め物)を入れたのですが、 1週間と経たないうちに、歯が割れてしまい、 抜歯を余儀なくされてしまいました。 そのおじいさんだけでなく、私も、とてもショックで、 しばらく考え込んでしまいました。 今でも時々思い出しては、いろんなことを考えさせられるのです。 そのおじいさんは、うちに来られるまで、 歯医者にかかったことはなかったそうで、 一本の虫歯も、歯周病もなく、とてもきれいなお口の状態でした。 歯もエナメル質の結晶化が進み、水晶のように透明で硬いものでした。 ただ、硬くなりすぎており、弾力が無く、エナメル質だけでなく、 象牙質もとても脆く弱くなっていました。 90歳以上の方の歯は弾力を失いとてもデリケートなので、 インレーは咬合力によって、 くさびのように、歯を割ってしまう可能性が高くなるようです。 せいぜいプラスティック系の修復材で欠けたところだけを埋めるか、 全部グルッと削って、冠を被せてしまうしかないように思いました。 あるいはそんなことでもだめで、 遅かれ速かれ、歯が割れてしまうことには変わらなかったかもしれません。 高齢になると、歯を人工物で修復するというのは、 全く、その発想からして無理があるように思います。 歯は咬む力に良く耐える構造をしており、 そのマクロの形状、ミクロの形状はとても合理的、機能的で、精妙にできており、 人為的にいじると必ず弱くなります。 (人の歯の形状の話はまた別に取り上げますね。) 今までの歯科治療というのは、 高齢の方に対しては、 もともと想定外なのだと思います。 高齢というと具体的には何歳かというと、 90歳以上というわけではありません。 経験的には50歳を過ぎると、歯は弾力を失い壊れやすくなります。 弾力がある食べ物、硬い食べ物は危険です。 たとえ冠を被せていても、安心はできません。 統計的にも、抜歯の原因の第一は破折ということからも このことは裏づけられています。 削って被せる式の歯科治療は、 100年以上前のアメリカの歯科医G.V.ブラック博士が確立して以来、 今だ全くそのコンセプトは変わっていません。 確かに、当時は人生50年でした。 既に、人生100年の時代となった今、 削って埋める式の歯科治療は、 時代にそぐわなくなってきているのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/02/21 10:24:48 AM
コメント(0) | コメントを書く
[ドクターのつれづれ。] カテゴリの最新記事
|
|