先日報告しましたが、東急池上線の洗足池駅からも久が原駅からも徒歩15分は覚悟せねばならぬだろう陸の孤島化した土地があります。シロウト考えでは、この辺に洗足池を配することができたなら地元民の憩いのスポットとすることも期待できたのだろうけれど、恐らくこの路線が引かれる以前からこの池はあったのだろうし、利便性や将来性、そして多分に政治性が加味された上での現状なのだろうから、余所者がとやかく嘆いてみたところで詮のなきことです。だから
これから向かう酒場に初めて向かおうというのであれば、先に書いた店とのハシゴで予定しておくのが常套なコースとなるのでしょう。この二軒は何れも酒場放浪記に登場しているから、実際にそれを実行した人も少なくないと想像します。ぼくもウッカリしないでちゃんとHPをチェックしていさえすればきっとそうしたはず。そして二度に分けて訪れたことで思いがけぬ出会いや知見を得るというようなことはなかったのだから尚更なのです。とまあこんな愚痴など似たような経験をされている方も少なくないのだろうからこの辺にしておきます。
前回は洗足池駅から南下するコースを選択しましたがこの日は久が原駅を起点にしました。まあそうしたところで、これといって愉しむ間もなく案外あっさりと目的地に到達しました。すると肝心の酒場に劣らぬくらいに気を惹かれる「pivot」という喫茶店がありますが閉まっていて、店内には灯りもありません。前回ここを通っていたら入れたかもしれぬのに。
さて、本来のお目当ての「三陸」は、予想していた以上に町外れのしんみりと古ぼけた佇まいでした。この立地だと通勤客の来店を見込むのは現実的ではなさそうだから、恐らくは地元の方を相手に地道にやっていこうと店を始め、その思いはもうすぐ成就せんとするかのような、終焉を常に目前に据えているような雰囲気です。店内は提灯やテナントもあったかなもとは原色が無造作に散りばめられていてかつては民芸調のふるさと酒場だったのでしょうが、今ではそれも燻蒸されて茶褐色を通り越して黒ずんでしまっています。先客は近所のご夫婦だけ、店の老夫婦も基本的には沈黙を崩さず、皆がテレビに流れる時代劇に見入っていて、水戸黄門はやはり東野英治郎だなあ、今度武田鉄矢がやるらしいよ、案外はまり役かもなどと他愛ないことを呟くのみです。酒場の店主が休憩にタバコを燻らせたり、独り呑みの客が黙りこくって盃を傾けたりしていると、何やら切実で深遠な物思いに耽っているかのような印象をもたらすものでありますが、その思いを巡らせる何かの正体は実にしょーもない事だったりするから、女性客はうっかり惚れたりしちゃいけない。さて、番組では刺身を盛り合わせてもらっていたように記憶するけれど、ぼくにはここで刺し身という気分にはなれない。せいぜい、塩辛とかくさやなんかの簡単なもので良いはずだ。目の前にインゲンを茹でたのがあるからそれ頂戴とお願いします。ぼくに続けて入ってきた若いカップル、彼らはぼくとは正反対に遠慮なく注文しています。きっと同じく番組を見て来ているのだろうけれど、さして感銘を受けてもいないようなのです。こういうところでは、大声を挙げたりせずにひっそりと快哉を挙げればそれでいいのだ。