昨日、孤甚丸さんのコメントに衝撃を受けました。衝撃を受けるというのは、常に何事かがもたした結果に対するリアクションという形でしかなり得ないものでありまして、その何事かが自身に及ぼした効果はもはや取り返しのつかないこととして受け止めるしかない性質のものであります。今回お知らせいただいたコメントは無念とか悲しいといったネガティブな衝撃だったわけで、それは端的には山谷の「大林」の閉店の報であったのです。一般的な理解では、良い方向にベクトルが向いている事柄に関しての衝撃は歓迎されるものですが、良くない事柄にベクトルが向いている場合の衝撃は極力遠慮しておきたいと考えるものだと思われます。だからということではないのですが、事前に良い事柄に対して備えておくよりは、良くない事柄に向けて予防策を取っておくのが賢明というものでしょう。仮に「大林」とは違うどこか別の酒場が資金繰りで困っているなんていう情報を知って、しかもその酒場が自身にとってかけがえがないのであれば、例えばクラウドファンディングを立ち上げるなどの事前の対策が可能な場合もあるかもしれません。でも「大林」のオヤジさんがそうした申し出を受けてくれるとはとても思えないとなれば、衝撃を多少なりとも緩和するために、いつ閉じても未練がないと思える程度に足繁く通っておくことが一介の客でしかない身にとっては穏当な態度であろうと思うのです。どちらにしたってもたらされる衝撃も通いきったという思いが幾分か気持ちを慰撫してくれるだろうと考えたいのです。でもそう思って連夜通い詰めることでより一層にその酒場がかけがえのないものとなってしまう危険性もあります。仮に無沙汰したままに店がなくなるよりは同じ程度の衝撃を受けるとしても通っておいた方がマシだと思えます。と取り返しが付かなくなってからオロオロと感傷に暮れるくらいなら行けるうちに行っておくという気持ちが高まったのです。
ということで、訪れたのは十条の「齋藤酒場」です。ぼくが長くもなく短くもない半生において通った酒場では、5本、いや10本の指に入るのがこの酒場であります。まあうち2本が飛び抜けて長いから10指で例えるのはちょっと無理があるのですが、まあその位好きな酒場ということでご理解頂きたい。ここ数年は行く頻度もやや低調になってしまったけれど、それでもコンスタントに通い続けているのですが、前段の出来事があったものだからもう少し頻度を上げることも思い始めています。とはいえそうして無理に増やしてもノルマのように思えてしまうのは逆にストレスになりそうです。ふと夜を迎えて行く先を迷う時にはその候補としてそっと含める位がちょうどいいのかもしれません。でも前回も書いたような気がしますが、近頃お邪魔すると大概お客さんの入りが良くないのです。ある時にはぼくとその同行者だけだったりしたこともあって、先行きに暗雲が立ち込めているかのような印象を受けました。でも幸いかな、この夜はご高齢の10名ほどのグループが中央の大きな卓を囲んでいました。毎晩これ程に賑わっているかは知らぬけれど、まあこれなら大丈夫かな。若女将始め店の方たちも心なしかお元気そうに見えます。ここに来るとつい清酒もしくはにごりを頼んでしまいます。日本酒ってのは肴がなくても際限なく呑めてしまいそうだから、できるだけ控えるようにしてはいるのですが、この酒場の雰囲気では日本酒を呑む誘惑に抗うことは叶わぬのでした。でも駅から近いってことも多分に作用しているのでしょうが、ここだとうっかりすると肴に手を付けもせずにゆったりとした気分で呑みたくなっちゃうのです。そんなところがここを好きな理由なんだろうなあ。独りでもそれなりの人数ででもただ呑んでいるだけで気分の良くなる酒場なんてのはそうそうありません。そろそろ無粋なアクリル板も撤去されそうだし、また賑やかになることを願っています。