中東や北アフリカの産油国で民主化が進むことを恐れる欧米の国々は石油依存からの脱却を目指し、自然エネルギーへ
民主化を要求する声をバーレーン政府は暴力的に押さえ込もうとしている。その暴力装置として中心的や役割を果たしているのがサウジアラビア。アメリカ第5艦隊の拠点であり、中東における金融システムの中心的な存在でもあるバーレーンへサウジアラビア軍を中核とする1000名規模の部隊(現在では1500名以上と言われている)が送り込まれ、抗議活動を抑え込もうとしている。 4月19日にはふたつの病院を治安部隊が襲い、医師やスタッフなどを連行している。政府側は抵抗運動で負傷した人々を探し出そうとしているほか、シーア派の医師が運動を組織しているとも疑っているようだ。これまでに約499名が逮捕、拘留されていると見られている。中には、拷問で殺された疑いのあるケースもある。 言うまでもなく、イスラム教にはシーア派とスンニ派という大きな宗派が存在、権力集団と結びついて対立している。イラクと同じように、バーレーンではシーア派が多数を占めているのだが、支配層はスンニ派。植民地時代、欧米が意識的に少数派を支配者にしたことが原因のようだ。ちなみに、イランの支配層はシーア派。 イギリスのインディペンデント紙によると、バーレーンに展開しているサウジアラビア軍はシーア派の7つのモスク、50カ所の宗教的な集会所を破壊したという証言がある。こうした行為は国境を越えて、イラクやイランのシーア派をも刺激して中東を不安定化させている。 シーア派弾圧に対する怒りの矛先は欧米諸国にも向けられている。こうした国々はリビア政府の反対勢力弾圧を激しく非難、「人道」を口実にして軍事介入しているにのだが、バーレーン政府の「反人道的な行為」を容認しているからである。 アメリカや西ヨーロッパの国々がサウジアラビアやバーレーンの弾圧に寛容な理由は、言うまでもなく、石油にある。スンニ派が支配するサウジアラビアや湾岸の産油国の独裁体制が崩壊することを恐れているのである。最近見つかったイギリス政府の秘密メモによると、イラク侵攻でも石油が念頭におかれていた。 ただ、イラクの場合は「イスラエル」という大きな要因があった。1980年代からサダム・フセイン体制をめぐってアメリカとイスラエルが対立していたのである。ジョージ・H・W・ブッシュ(シニア)やロバート・ゲーツはイスラム革命から湾岸の産油国を守る防波堤としてイラクを位置づけ、フセインとも友好的な関係を結んでいたのだが、イスラエルやネオコン(アメリカの新イスラエル派)はフセインを危険な存在だと敵視、排除するべきだと考えていたのだ。 イスラエルやネオコンには、フセインを排除し、ヨルダン、イラク、トルコという「親イスラエル派」の帯を形成し、イランとシリアを分断するという戦略があった。1990年代にネオコンは繰り返し、フセインの排除を主張している。ジョージ・W・ブッシュ(ジュニア)はこうしたネオコンの戦略に従ってイラクを先制攻撃し、フセインを排除している。こうした戦略に石油資本も乗ったということかもしれない。 ちなみに、2009年の石油生産量は次のようになっている。1)ロシア 1003.2万バレル2)サウジアラビア 971.3万バレル3)アメリカ 719.6万バレル4)イラン 421.6万バレル5)中国 379.0万バレル6)カナダ 321.2万バレル7)メキシコ 297.9万バレル8)アラブ首長国連邦 259.9万バレル9)イラク 248.2万バレル10)クウェート 248.1万バレル(BP Statistical Review of World Energy, June 2010) あと数十年で石油が枯渇する可能性があるということを度外視しても、中東諸国が石油生産の中心的な存在だということも大きな問題になっている。今後、中東/北アフリカの民主化が進めば、日欧米にとって都合の良い生産体制は崩れる可能性がある。日米欧にとって、石油の依存度を低下させることは重要なテーマだと言えるだろう。福島第1原発の事故で原子力発電の復活が困難になった今、ヨーロッパを中心に、自然エネルギーへ舵を切る国が増えるだろう。日本も「核武装の夢」を捨て、自然エネルギーを目指す時だろう。