荒野、桜庭一樹著
少し幻想的な第三部荒野というのは、主人公の、思春期の少女の名前だ。作家の父親を持つ、などの、少しだけ変わった境遇であるが、取り立てて、特異という程ではない家庭。この家庭と、学校などで、この年代らしい独特な感性で、実際に眼鏡を通して、世の中を眺める。「ハングリー・アート」という、人を動かす衝動について、考える下りは、面白い。第一部では、ジャズや作家に対して、第三部では、さらに包括的に、この言葉の意味を問う。三部構成の、この作品の、第三部のみが、書き下ろしらしい。第三部では、文学賞授賞式、夏祭りの喧噪、義母の失踪などの下りが、少し幻想的に描かれる。特に、夏祭りの喧噪の中での、主人公の孤独感の描写が独特で、特筆したい部分だ。主人公は、眼鏡をコンタクトに変えた。コンタクトを通して観る世の中は、よりクリアーだ。この年代の主人公が、人生を、どんな風に眺めるのか?こんな観点での、見所は多い。