地球人スピリット・ジャーナル2.0につづく
「アメリカよ、美しく年をとれ」 猿谷 要 2006/8 岩波新書
御年83才の著者が、半世紀にわたる愛するアメリカについて語る。1923年生まれ、日本で言えば大正12年生まれであるから、52歳の私の親の世代、戦争でもっとも青春時代を翻弄された世代といっていいだろう。同級生や知り合いに戦死者も多くいるはずである。一般的にいって、いまのネット社会の中では、おじいちゃんかひいおじいさんにあたる。
この著者が、表すこの本は、ひときわ重さのある貴重な個人史的アメリカ論であり、また平和論でもある。「アメリカが愛されていた頃」「”天国”のなかの”地獄”」「アメリカが嫌われようになって」という章立てのあとに、終章で「アメリカよ、美しく年をとれ」となる。著者が一日本人としてアメリカを愛しつつ、最後のラブコールを書いている、という趣である。
新生国アメリカが可能性いっぱいだった時代、先住民達の葛藤、黒人問題などの内政問題、産業化による隆盛と帝国化、そして手を広げすぎたがゆえに世界からきらわれるようになってしまった現在。アメリカの歴史と著者の歴史が二重写しになって、著者は自らを諭すように「美しく年をとれ」とつぶやく。
この本は意識的に、いままで書かれたり紹介されていない部分に光をあてているが、個人的にはわたしはチェロキーについてのくだりをとても関心もって読んだ。
1830年には東部でもう最初の鉄道が走っている。そんな時代にまだ東部の各地には、インディアン諸部族が健在だったのである。
しかし、ジョージアからノースカロナイナ、それにテネシーへかけての美しい土地にすんでいたチェロキー・インディアンにとって、悲惨な運命が待っていた。1828年にチェロキーのなかのダロネーダという土地で金鉱が発見されたのだった。p56
そのうちチェロキーに関しては、もうすこしまとめて読んでみたいなと思っている。キング牧師やケネディーなどの暗殺にも触れている。そして現代に至る。
9.11テロの直後、アメリカ人の多くは報復のためテロとの戦いを誓ったが、それは応急処置のようなものであって、なぜアメリカだけが狙われたのかという本質的な分析や反省はほとんど見当たらなかった。本来はそこから始めなければならないのだ。p168
現代を考えるならやはり、アメリカ、そして9.11は避けては通れないテーマだ。
私はアメリカが軍事力より経済力へ、経済力より文化力へと、関心の重点を移行させるのが一番優れた方策であると信じる。他国に介入して怪獣ゴジラのように肥大した軍事中心の国になるよりも、自分だけで警察官をつとめることの無益を悟って、自国内にいまだ20%近くもいる貧困層の救済に努めた方が、結果として世界からの賞賛と好意を得る道につながっていると思っている。p195
まさに同感である。10代でアメリカにおける9.11を体験した岡崎玲子の作品と合わせて読みたい一冊である。
著者は加齢現象で、日々お体の不調を訴えておられるようである。冬に向かいますますお健やかですごされることを祈っている。