「チベット問題」 ダライ・ラマ十四世と亡命者の証言
山際素男 2008/06 光文社 新書 240p
『チベットのこころ』 1994.11 三一書房 再編集・改題書
Vol.2 No.0219 ★★★☆☆
タイミングよく今年6月にでた本であるが、すでに94年にでていた本の再編集・改題本である。副題のとおり、ダライ・ラマとの対話と、亡命者たちの証言で構成されている。山際素男には「アンベードカルの生涯」や「ブッダとそのダンマ」などの好著がある。
チベット問題を宗教的に受け止めるのか、政治的に捕らえるのかで、大きく解釈の仕方が違ってくるが、北京オリンピック開催中の現在、中国共産党によるチベット民族への不当な干渉、という歴史事実の再認識がどうしても必要になる。
ダライ・ラマの「宗教的」側面はあまり深められていないが、ここに至って、ダライ・ラマの「政治的」側面に多く光を当てられることが多いのは仕方ない。なんど聞いても、悲しいストーリーは悲しい。新たな悲しみが込み上げてくる。
亡命者たちの話は、私にとっては初めて聞くような内容の虐待も多く語られていて、目をそむけたくなった。耳もふさぎたくなった。残酷すぎる。人間というものは、どうしてここまで残酷になることができるのだろう。
これはすでに1994年に語られている内容であり、その時点での事実が語られているだけだ。だが、これで終わったわけではない。それから14年経過して、こうして北京オリンピックの各選手の成績に一喜一憂している間にも、チベットや、周辺の人々は、限りない暴虐の嵐の中に投げ込まれている可能性がある。
事実を覆い隠すように、オリンピックなどの派手な演出で目くらましされているが、その裏で、チベットで何が起こっているのかは、耳をそばだて、目を丸くして見続ける必要を感じる。