公共交通機関の利便性面から見た福島「圏」の境界についての考察(その10 磐越東線他いわき市周辺部編)
前回の考察が予想外に大分量に及んだので、ちょっとまとめです。中通り南部において、「宇都宮圏」および「水戸圏」に分類される地域は、「宇都宮圏」…白河市のうち東北中学校学区(概ね旧大沼村および旧小田川村)、旧大信村、旧東村東部(=旧小野田村)を除く全域、西郷村の全域(人口約72,000人)「水戸圏」…棚倉町のうち旧近津村、塙町および矢祭町の全域、鮫川村のうち渡瀬、青生野(人口約21,000人)となるものと思われます。従って、福島県内における「宇都宮圏」は南会津地域(約24,000人)と併せ、約96,000人の人口を擁することになります。県民の5%弱が浸食されているというだけも凄まじいと思うのですが、「宇都宮圏」を上回る様相を呈しているのが、これから紹介するいわき市内における「水戸圏」の浸食ぶりです。なにせ、福島駅と水戸駅との中間地点は、いわき市内の山間、夏井川渓谷や背戸峨廊に程近い江田駅の北側500メートルの地点。ただし、磐越東線が地方交通線であり江田駅からだと福島駅方面の方がその距離が長い関係で、同駅からの運賃は、水戸駅が1,890円なのに対し福島駅が2,210円と割高になります。従って、江田駅のデータもまた、普通列車利用を前提に考えると、【対福島駅】運行本数 上下11本平均所要時間 2時間28分片道運賃 2,210円【対水戸駅】運行本数 上下12本平均所要時間 2時間14分片道運賃 1,890円と対福島駅の完敗であり、従って指標も、【対福島駅】運行本数 - 4.3ポイント平均所要時間 - 5.0ポイント片道運賃 - 7.8ポイント計 -17.1ポイント【対水戸駅】運行本数 + 4.3ポイント平均所要時間 + 5.0ポイント片道運賃 + 7.8ポイント計 +17.1ポイントと大差がつく結果となります。東北新幹線を利用すれば平均所要時間の面では対水戸駅を上回ることが可能ですが、その分運賃が割高になるため、指標の差は縮まりません。なお、江田駅から一駅福島駅寄り、中通り側から見ていわき市の玄関口に位置する川前駅だと、【対福島駅】運行本数 上下11本平均所要時間 2時間14分片道運賃 1,890円【対水戸駅】運行本数 上下12本平均所要時間 2時間23分片道運賃 2,210円と、平均所要時間、片道運賃の両面で対水戸駅を上回るため、指標も、【対福島駅】運行本数 - 4.3ポイント平均所要時間 + 3.2ポイント片道運賃 + 7.8ポイント計 + 6.7ポイント【対水戸駅】運行本数 + 4.3ポイント平均所要時間 - 3.2ポイント片道運賃 - 7.8ポイント計 - 6.7ポイントと、逆転することになります。この結果を踏まえると、いわき市は、川前地区を除いた全域が「水戸圏」ということになるかと思います。川前地区の人口は約1,300人。いわき市の全人口は約333,000人ですから、実に331,700人が流失していることになります。それだけでは可哀想だから、49号線と349号線の両国道が合流する三和町三阪地区も、お情けで「福島圏」に入れてもいいかもしれません。三阪地区は小野町や平田村に近接し、2006年までは川前駅から更に二駅福島駅寄りの小野新町駅から常磐交通(現・新常磐交通)の路線バスが発着していたから、一応それなりの根拠はあります。しかし、三阪地区を合わせたとしても人口は2,500人程度ですから、残りの330,500人は依然として「水戸圏」に留まります。なお、平田村、あるいはその南に隣接する古殿町に関しては、いわき市方面からの路線バスの便が皆無であり、逆に小野新町駅や磐城石川駅といった「福島圏」の駅からは路線バスが発着しているので、「福島圏」に組み入れていいでしょう。…と一旦書いてみたのですが、更に詳しく調べてみると、実はこの他に、いわき市内の意外な場所に「福島圏」があることがわかりました。それは、好間地区のいわき中央IC付近。ICに隣接するバス停に福島駅や郡山駅とを結ぶ高速バスが頻繁に発着する関係で局地的に中通りとを結ぶパイプが発達している地理的条件により、なんと「福島圏」の飛び地が発生しているのです。複数のルートについて試算してみたところ、いわき中央IC付近では、福島駅方面は「いわき~福島間高速バス(一日上下16本)」および「いわき~郡山(~会津若松)間高速バス⇒東北新幹線(一日上下45本)」両ルートの合算、水戸駅方面は「町田橋バス停~いわき駅間路線バス⇒常磐線(特急含む)」のルートがベストであり、各便のデータを集計してみると、【対福島駅】運行本数 上下61本平均所要時間 1時間49分平均片道運賃 2,938円※片道運賃の内訳 いわき~福島間高速バス(上下16本) 2,300円 いわき~郡山間高速バス⇒東北新幹線(上下45本) 3,160円【対水戸駅】運行本数 上下51本平均所要時間 1時間57分平均片道運賃 2,481円※片道運賃の内訳 いわき駅から普通列車利用(上下27本) 1,940円 いわき駅から特急列車利用(上下24本) 3,090円となり、指標は、【対福島駅】運行本数 + 8.9ポイント平均所要時間 + 3.5ポイント片道運賃 - 3.7ポイント計 + 8.7ポイント【対水戸駅】運行本数 - 8.9ポイント平均所要時間 - 3.5ポイント片道運賃 + 3.7ポイント計 - 8.7ポイントと、水戸駅を上回ることになります。なお、福島駅方面の運賃は通常運賃によるものであり、高速バスの往復割引や郡山駅~福島駅間のWきっぷを活用すれば、隣の叶田団地入口バス停もまた「福島圏」に組み入れることが可能です。ついでに、いわき中央ICから国道49号線を西進した先にある三和町永戸、沢渡の両地区についても調べてみたのですが、こちらについては、いわき中央ICでバスを乗り換えなければならない時間的ロスが響き「福島圏」への編入は厳しい情勢のようです。高速バスがいわき三和ICでも停車してくれるのならば情勢が一変するのでしょうが、多分期待はできないでしょう。いわき中央ICの駅勢圏ならぬ「バス停勢圏」は、大字名を列挙すると好間町内の中好間、上好間、北好間、そして好間工業団地といったあたりでしょうか。人口は6,000人ほど。従って、先に紹介した川前、三阪の両地区と併せて、いわき市内における「福島圏」の人口は8,000人強ということになるでしょうか。残りの325,000人余りは「水戸圏」ですが、福島市といわき市との距離感から連想する印象から考えると、「福島圏」は意外に健闘していると言えなくもありません。