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テーマ:■ムービー所感■(484)
カテゴリ:多国合作映画
ドストエフスキーの「白痴」を、5代目坂東玉三郎主演、アンジェイ・ワイダ脚色・演出した同名舞台の映画化。玉三郎と二人芝居を演じた辻萬長に代わって、永島敏行が相手役ラゴージン役を務める。 原作を読んだことはないけれど、長大な物語のクライマックス“ラゴージンがナスターシャを殺してしまったところに、ムイシュキンが訪ねてきた場面”これをコンパクトにまとめたストーリー。随所にそれまでの物語の重要な場面を挿入する構成をとっていて、全体の物語のニュアンスも感じながら観られるものだった。 舞台の客席との距離はきわめて近かったというから、自分も慣れ親しんだ小劇場の雰囲気があったのかもしれない。映画という媒体で初めて触れた5代目坂東玉三郎の演技は、身震いするほど素晴らしかった!これを生で観てしまったら、忘れられないでしょう。当時の舞台を観た方が本当に羨ましく思います。 ムイシュキンを演じる玉三郎は、イヤリングとショールを身につけると、一瞬にして女形に変身する―――という舞台と同じ演出で、映画ではカットを変えることで、眼鏡を外し薄化粧をしたより女性に近い姿のナスターシャとなっている。妖艶で見惚れるほど美しいナスターシャに目が釘付けになってしまう。映画ならではの演出だ。 反対に、ムイシュキンを演じているとき身に着ける眼鏡は、光を反射させて表情を隠す。目が見えないことで、表情が読みとりにくくなる憎い演出。不気味に光るレンズがすごく印象に残る。 舞台上の閉塞感をわざわざ映画にした作品を、あまり好意的に観てこなかったけれど、本作は別。こういう形で映画にしてくれたからこそ、名舞台を今でも目にすることができるのだから嬉しい。しかもポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダとの夢のようなコラボ。どんな経緯があって実現したんだろう。 50年代の『灰とダイヤモンド』や『地下水道』が日本でも人気高いワイダ、芸術家同士が引き合わされた感じだったんだろうか。玉三郎氏も、進んで各国の芸術家と一緒に仕事をしているから、舞台までの経緯はそういう難しいことではなかったのかもしれないけど。それにしてもこのお二人がコラボしていたなんて、本作を知るまで知らなかったので驚きだった。ワイダは親日家なのかも。(そういえば先日もBSで自作を語るインタビューに応えていたっけ) 全編ポーランドの首都ワルシャワの宮殿でロケを行い、霞みのかかった逆光の淡い光の中で、絶対的な品位に包まれた映像美で綴られている。“白痴”と呼ばれるほど純真で美しい心を持ったムイシュキン公爵と、どこまでも粗野なラゴージン。坂東玉三郎と永島敏行の二人が、対比する人物像を見事に演じていることも、単調になりがちな舞台劇の映画化を助けている。 なにはともあれ、坂東玉三郎の演技は脱帽ものだ。 (カラー/日本・ポーランド合作/99分) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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