さよなら、サイレント・ネイビー」 地下鉄に乗った同級生
伊東 乾 2006/11 集英社
私はこの作品をNHKテレビ「週間ブックレビュー」で知った。毎週この番組をつれあいが見ており、日曜日の早い時間の番組とあって、彼女がDVDに録画しておいてくれたのである。その中に作者である伊東乾が登場していた。最初はめがねをかけて帽子までかぶっていたが、30分間のインタビューの最後には、素顔の自分を出した。
それは、異物に対する違和感を、伊東なりに表現しようとしたパフォーマンスであったのだが、彼のいわんとするところは、つまり、分からないと思っているけど、本当に異物なのか、本当に分からないのだろうか、という問いかけなのである。それが、10年前の事件、ましてや、オウム真理教事件、とりわけ、地下鉄サリン事件となれば、通常なら、顔をそむけたくなるのが、普通だろう。
しかし、著者は、あの電車に乗り込んでサリン事件の実行者の一人と目され、二審において死刑判決を受けている豊田亨の大の友人だったのである。その周辺には、「気流の鳴る音」の見田宗介(真木悠介)や「覚醒のネットワーク」上田紀行がいた、というから、なんだかただ事ではない。
本文では、実名ででてくるのかわからないが、第4回開高健ノンフィクション賞受賞 した作品ということだから、私もこの本をゆっくり読んでみようと思う。何回に分けて、どういう形になるのかわからないが、とにかく、私にとってはいままで封印してきたパンドラの箱をひらくような、ちょっと腰の引けた状態でのスタートとなる。
(続く)