ストレス発散+肩こり対策+握力強化に極めて有効な素振り用の木刀は九州の宮崎県都城市産が一番
机にしがみついているデスクワークは肩が凝って、歳を重ねる毎に体力の低下も心配になってくるし、とにかく体を動かしたい欲求と共にストレスが募って仕方がない。ある日、庭の手入れをしていた時に草取り鎌を持つ手に力が入らなくなり、庭木の剪定鋏でも同様に息まで上がり明らかな体力の低下を思い知らされる。20~30代は握力なんか63Kgあったのに、これはちょっとマズいなと思案している時に思い出したのが、中学時代の体育の授業に剣道があって竹刀を振っていた事だ。当時、剣道という事で皆が買っていたサブロクという規格の竹刀を、間違えてサンパチという一つ上の重い竹刀を買ったお蔭で、素振りをする事は握力を含めた全身運動であり、真剣になって振るとヘトヘトになっていたのを思い出した。以前、知人が五十肩になってしまい、医者に教わって水を適当に入れた500ccのペットボトルを用意すると、痛くない方の腕をテーブルに置いて前屈みになると、反対側の痛い方の腕でペットボトルを振っているのを見て確信した。今の所、四十とか五十肩には縁が無いけど、デスクワークに付きものの肩こりにも、肩叩きより自分で肩の関節や筋肉を動かすのが一番有効ではないか。実は心から敬愛している日本の経営者の一人だった、土光敏夫さんの健康方法が木刀を持って自宅の庭に出て、自己流で動き回りながら振り回す事であった。こうなると数十年ぶりに木刀を振りたくなり、ちゃんとした木剣とも呼ばれる木刀を探す事にした。実は中学でも木刀には縁があって、修学旅行で京都・奈良を訪れた際の、男子定番のお土産はなぜか木刀だったのだ。但し、それは木刀とは名ばかりの真っすぐで軽い単なる棒切れで、柄の部分に穴が空いていて紐が通されていた代物だった。結局、素振りでもマトモな竹刀の代りとはなり得ず、布団叩き位の用途しかなかったのだ。ある日ネットで京都の武具屋さんにスヌケという材を使った、重さが750g程の見事な木刀を見付けた。振るだけなので使って減る部分は無いし、この先ずっと付き合う事を考えると貴重な材で出来た職人仕事の逸品が、たったの1万円程なんて安すぎると思った。そのスヌケという材は樹齢300年以上の、硬いイスノキが立ち枯れして風化した芯材の事で、数が少ない上に乾燥だけでも最低5年は掛かるので、元々受注の確約が取れないものらしい。現在、ちゃんとした木刀の殆どが宮崎県都城市で製作されている。同地は、元々軍需で使われる樫材が豊富だったらしく、大正時代に福岡の武具造りの職人が移ってきたのが木刀製造の始まり。その後、最近になりコロナの影響による需要減も響いたのか、2019年に国産木製武具の4割を生産していた工房の一つが撤退した後は、残った3軒の工房に国内は元より世界中から注文が殺到している状況になってしまっている。オマケに最近は良質な国産材の確保が難しくなり、例のスヌケ材に関しては既に制作が厳しい状況に陥っている。今後、真っすぐで木目の揃った国産良材を使った木製武具は、価格の高騰が予想され、いずれ国産材の使用は普及品用では難しくなるかもしれない。手元にあるスヌケの木刀(大刀)は、手にしてみるとマホガニーに似た硬質な材で、濃い茶褐色の滑らかで緻密な木肌を眺めているだけで、思わず居住まいを正してしまう位のパワーがある。とにかく水に沈む程の比重を感じる重量感が凄くて、木刀は切っ先三寸が命と言われるだけあって、その凛とした佇まいは正に武具そのものだ。最初にスヌケの大刀を掴んで家の外に出てから、勇躍一振りして愕然とした。とにかく重くて全然振れない。刀身の中心に力が集中せず空振りのヘナヘナで、無理をしたら怪我をするのが自分で分かる位だった。よく考えればスヌケの大刀など、鍛え上げられたその道の達人が使うホンモノの武具であり、素人如きが扱える代物であるわけがない。とにかく体力の無さはどうにもならないので、まずは左右少しずつ鍛錬するしかないと思い、片手で扱う脇差サイズの椿の小刀を追加。その軽い小刀でも最初は全然ダメで、特に左腕なんかフニャフニャのヘロヘロで話にもならない。それでも座椅子でTVを見ながらの小刀振りに慣れて来ると、左腕でもピュンピュン音が出るようになり、片腕50回の左右100回を1セットで、2~3セット出来るようになったところで、次に500gの重さの白樫の中刀を発注した。本来、中刀は子供の練習に使われるものらしいけど、長さが短めなので室内で振れるのが良いし、修学旅行のお土産とは違いホンモノの木刀は鑑賞に堪えられる造りだ。中刀でさえ最初は文字通り太刀打ちできず、どうも普段使わない筋肉や関節に負担が掛かるらしく、特に両方の人差し指と、親指と手の付け根の関節が悲鳴を上げる。中学の頃から比べると大分劣化している肉体の現実を思い知る。それでも振っている内に中刀でもビュンビュン音が出て来て、刀身に力が集中できるようになり、100回くらいなら軽く振れるようになった頃に、ようやく秘蔵のスヌケを引っ張り出す。改めて白樫とは全然違う手応えと重量感に圧倒されつつ、それでも100回くらいならビュンビュン振れるようにはなった。一番振っている白樫と週末専門のスヌケを並べてみる。それ程大きさは変わらないのに全くの別物だ。愛用している3本の木剣を並べてみる。上がメイン木刀の”白樫”中刀、真ん中が”椿”小刀、下が”スヌケ”大刀木刀の最上品は琵琶の木らしいけど、椿はそれの代用品として扱われる材だ。椿の小刀は淡褐色で椿油を連想させるような滑らかで緻密な材で、思ったよりも軽いのだけど、その凛とした佇まいは武具そのもの。出張先にも連れていって現地で振る事もある。木刀の命とも表現される切っ先三寸から刀身に至る景色。職人さん達が木刀制作の工程で一番神経を使っているという切っ先を、その道の達人に向けられたら何もできなくなるだろうな。今ではブームらしいホンモノの日本刀を欲しいとは思わないけど、この3本が手元にあればカタナ趣味はもう充分。木刀を振り出したのはコロナ禍前からなので、数年を経過した現在では白樫ならずっと振れるようになった。キリがないので普段は白樫をゾロ目の222回振って、日曜日には白樫を122回か200回+スヌケを100回振っている。お蔭で肩こりは無いし庭仕事だって楽ちんになった。白樫の中刀を室内でTVを観ながら振っていると、頭の中のモヤモヤも消えてストレス解消にも有効である。最近、スヌケの木刀は入荷未定になり3倍にも値上がりして、殆ど中古でしか入手は出来ないものになってしまった。ずっと5千円位の白樫だっていつまで維持できるか分からないという状況で、木刀一本にも日本の現実や未来が見えてきて何とも寂しくなってしまう。