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カテゴリ:新宿区
高田馬場の酒場も随分巡り歩いていますが、未だにその全貌が掴みきれていない印象があります。いやこれはいつも書いてから後悔する傲慢な語りっぷりでした。何十年と暮らし過ごした地元にしたって、すべての路地を通り抜けたかと問われると自身が持てないものだし、それ以前の問題として例えその通りがウンザリするほどに通過していたとしても、仮に床屋さんの佇まいに突如興味を持ったとしたらこれまでは視界を撫でる程度の刺激でしかなかったのが、驚くばかりに鮮烈なものとして知覚され、通りそのものも以前とは違った風景として迫ってくるに違いないでしょう。まあ傲慢さの復習はこれだけに留めるにして、高田馬場を主に酒場と喫茶店、かつては映画館を基調とした視線においてからもう随分と時を経て主たる通りは繰り返し歩いたはずですが、それでも見逃している店があるものです。見逃すというのは正しくないな、最後にその通りを通ったときにはその店は存在すらしていなかったはずだから。新陳代謝の活発さこそ高田馬場の特徴でもあり、それが退屈さでもありー老舗が減っていくー、逆に面白みでもあるらしいのです。
神田川に近い駅からはちょっと歩いたところに喧騒から少し身を離すように数軒の居酒屋が寄り添う通りがあります。そんな一軒が「居酒屋 まき野」です。以前店の前の貼り紙にドリンクがお得に呑めるなんてことが書かれていたので、勇んで戸を開けたがどうしたものか断られる。そんなに金を持っていないように見えるか!一階のカウンター席は空いてるではないかと憤ったことを覚えています。だからその意趣返しということもなく、単に手頃な酒を求めて再訪しました。あらら、この夜は生ビールがお手頃とのこと。いかにも気に入らぬという素振りを隠そうともせぬO氏には気付かぬふりをして、サッとの戸を開けます。今晩も一階が空いています。これで断れたら詰問してやろうと心していたのですが、すんなりと通されました。二階席に通されましたが、これはどうやら一階席は作ってはみたものの導線が悪くなるとかで普段は使用してないのかなと想像しました。ところで、二階は個室風に間仕切りがされていて、それはまあいいとしても仕切るのが白いヴェールというのはなんとも艶めかしくて、どうもおっさん二人組にはむず痒い環境です。周りの客もカップルや女性同士というのがほとんどで場違い感が相当なプレッシャーなのです。でもここそんな恥じらいなどを抜きにすると案外良いのではないでしょうか。魚介がメニューの中心ですがそれがかなりちゃんとしてあるのです。下心ありの表向きしっぽりとした雰囲気で呑むのには向いているかもしれません。 でもわれわれがそんな呑み方に相応しいとは思っていません。高田馬場の酒場では、「双葉 本店」のような酒場こそがわれわれの理想にかなり近しい店なのです。分かっているのなら余計な寄り道をして時間と金を浪費するなとの批判は甘んじて受け止めますが、どんなに好きなものでもあまりに執心し過ぎると飽きるものだということは、誰しも経験のあることだと思います。いつものように混んでもおらず、かといって好きすぎてもいない程の良い客の入はいつもの通り。テーブル席でもいいけれど、テーブル席の親密すぎる距離感は先の店で十分に過ぎるくらいに堪能させていただきました。ここはやはりカウンター席に着きます。近頃やけにコの字のカウンターがもてはやされていますが、あれはちょっとどうかと思うなあ。牛丼屋や回転寿司なんてほとんどがコの字のカウンターなんだし、それがあるだけで全く他の要素が酒場からかけ離れているように思われるお店が賛美されているのを見たりするとホントうんざりさせられるのです。というようなことは当然のことに現地では考えもしません。良い酒場に浸り込み、ただ呑むだけです。不思議とO氏との会話も向き合っていたさっきなどより闊達になるのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016/10/07 08:37:06 AM
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