東急東横線の酒場とはどうも相性が良くないのか、大抵の狙っていた酒場に初回で入れることは極めて稀なことで大抵、二度三度と出直すことになるのです。その原因は分からぬこともなくて、自宅からは近からず遠からずという距離感のため、出向くのが土日が多くなるのだから休んでいても文句は言えません。事前にある程度のリサーチさえしておけばある程度の有名店であれば思惑通りに、目指す酒場の客として収まることはそう難しくはないはずです。だったら愚痴るなんて無駄をしている間に、空いてる時間を使ってせっせと営業時間でも調べておけばいいではないか。でもなかなかそうしないのは横着だからという回答に帰結するのですが、調べても分からぬ場合はどうするか。よほどの辺境にある店ならばごくごく稀に電話することもありますが、それは極力避けたいものです。特に常連しか行かなさそうな店で開店状況を聞いたりしては、それがぼくであることがあからさま過ぎて当日に気不味い思いとなるのが常です。この電話をするという行為は、自宅からの距離によって変わるものの概ね2度、もしくは3度訪れても入れぬ場合に限られるます。でもこれも肝心の電話番号が入手できぬことも多いので、いずれにせよ事前調査にも自ずと限界があることになります。
大倉山のこのお店は2度ばかり振られただけで、さほど行きにくい町でもないのだから何度でも通えば良さそうなものですが、こぢんまりとしながらもどこかしら瀟洒でそう何度も行きたくならぬという東急沿線の一方の表情が足を遠のかすのです。でもどうにも気になって仕方がない店がある。以前訪れた際に見かけた掘っ立て小屋が気になって仕方ないのです。その時、灯りの見えぬこの店はもうやっていないのだろうな、しかも店名もよくわからぬのでは調べ用もないかなどと思ったのは真っ赤のウソで「大倉山 もつ肉店」というのはすぐに分かりました。これ程の面構えの店などそうはありません。気取った雰囲気の町にここは際立って目立つ存在です。こういう立ち呑み酒場こそ厄介で電話など繋がりそうもないから直接向かうのしかないでしょう。平日のそう遅くない時間に訪れると無事営業していました。ビールと清酒に何種かの野菜を交えたもつ焼だけのお店で、店内もいい感じのカウンターがありますが、ここは常連のじいさまたちと並んで表のカウンターに立ちながら、焼き場越しに店内の風景を愛でるのが初訪時の振る舞いとして正解だったと思います。小振りのもつ焼きは特別うまいということもありませんが、この雰囲気だけで呑めてしまいそう。常連たちには長居が許されるでしょうが、新参者であれば作法通りさっと数串のもつ焼きなどをたぐって、2杯程の清酒をあおればもう立ち去るに良い頃合いです。馴染めぬ雰囲気の駅前通りを急ぎ足に引き返し、気持ちは早くも次の町に向かうのです。