夜が待ち遠しい

生麦という町の酒場の潜在力はかねて経験し、充分に理解しているものと思っていたのは誤りでないことを再確認しました。実際歩いてみてもそんなに規模は大きくないのです。だから町を一巡りするのにさして時間を要しません。町と書きましたが、生麦の東口はその大部分が呑み屋なのではないか、いや、そんな事はないのだけれど半数位は呑み屋じゃないかなあ、それもやはり大袈裟か。どうも入り組んだ路地の張り巡らされ、そこに酒場が散らばっていると嬉しくて贔屓目で町を眺めてしまい、その結果として過剰な褒め言葉を弄してしまう傾向があります。実際には丹念に見て歩く余裕さえあれば30分と掛からずかなり詳細な呑み屋マップが作れてしまうのでしょう。だからこの先書いたことは、多分に私情と贔屓が盛られているとお考えください。







　このまま続けても一向面白い話になりそうもないので、とっとと一軒目の酒場を訪ねることにします。今回向かったのは「魚河岸」であります。マメに酒場放浪記をご覧になっている方ならご記憶かもしれません。ぼくもこのときは録画した番組を見たと思うのですが、あいにく少しも印象に留めていないのです。やはり同じく放映を見ていたらしいA氏も似たような有様です。だから最初、A氏はここに来る事を気乗りしなかったみたいです。店名のぼんやりした店の印象でどうも魚介料理をメインに据えたお高く止まった高級なお店と思ったようなのです。店の前まで来てもなお愚図るものだから次はどこだってご希望の店にするからと、なんとか説得して入店に相成ったのでした。実際この時、決断していなければ入れなくなるほどに後から入れてもらえぬ方たちがいました。確かに外観は面白みがないーと言っては失礼かーし、中に入ってもその印象は変わらぬのでした。混み合った店内のカウンター席に塩梅良く二人分の席がありました。混んでる店では呑み物はすぐに頼むべしとの先達の教えを忠実に守り、取り急ぎホッピーを頼んだらビールグラスに並々と焼酎の入ったグラスと外、氷入りのジョッキが出てきたのでした。慌てて品書きを眺めます。おおっ、この店ではセットがこのスタイルとなっているようです。値段はしかとは覚えておらぬけれど標準的な値段だったからこれはもう安いに決まっている。これは良い酒場だと安直に思ってしまうところが、ぼくの単純なところ。でもここは騙されたつもりでオーダーして問題ありません。どの肴も量も味もきっと満足させてくれるはず。思わずA氏と顔を見合わせて、出てきた感想はスゴイだけだったのだから全く持って情けない。先般東十条で似たタイプのお店にお邪魔しましたが、店の雰囲気を置いておくと、総合力ではこちらが幾分上かもしれぬ。いつもの〆の言葉になりますが、ここが近所の店ならちょくちょくお邪魔したいなあ。ても量が多いから独りじゃちょっと辛いかも。







　そういう意味ではやはり「大番」が使い勝手がいいかもしれません。A氏のリクエストはやはり生麦の誇る立ち呑みの名店でありました。さっきの「魚河岸」もそうですがシンプルな店名は、よほど自信のない酒場でなけりゃ大抵は貫禄負けしてしまいます。この酒場の立派さには初めて訪れた際に驚愕すら感じたほど、とにかく魚介系の肴をメインに据えた立ち呑みは少なくないけれど、質、値段、雰囲気など総合的に見ると首都圏で最高峰と言い切っても過言じゃない、かな、と思います。少なくともA氏はこういう店を関西の連中に見せつけてやりたい、確かに大阪の酒場は瓶ビールは安いけれど他の要素は首都圏が勝っていると言い切りました。ぼくも大筋のところ近い感想を持っていますが、これはあくまでもA氏の見解なので、文句のある大阪LOVEの方がおられたら、文句はA氏の方にお願いします。メッセンジャーとしてお役に立たせていただきます。おや、まさに斜め前のサラリーマン三人組が同じ話題で激論を交わしていますね。東京モンだって大阪モンだって同じ酒呑みなんだから仲良くやりゃいいのにね、とどこに住んでも余所者のぼくなどは高みの見物を決め込むのです。