夜が待ち遠しい

ようやくにして今年の年始の三日連続の日帰り旅の報告を終えたと思っていたのですが、うっかり書きそびれていた事があります。初日はひたすら東海道本線を往復し、翌日は常磐線でいわき駅まで乗り継いで引き返す、最終日はまたもや東海道本線で沼津まで行き御殿場線経由で都内を目指すという強行軍でした。3日とも早朝というよりは未明の時間には起床して準備を整え家を出る、夜は夜で今回は旅と絡めて報告はしませんでしたが、なかなか足を伸ばせぬ酒場を巡って帰宅したのだから、ちっとも正月明けらしからぬ忙しなさであったのです。そんな中で最終日の御殿場線は何年ぶりということもあり、のんびり車窓を眺めるひと時だったのです。寄り道も最低限に留めて、行きつ戻りつしながら滅多に乗車せぬ御殿場線からの眺めはやはり新鮮で存分に堪能したのでした。だから御殿場線の起点駅である国府津駅までもうすぐの松田駅は記憶に不鮮明なのです。小田急小田原線と乗り継げるこの駅で下車するのは実は初めてなのです。そして薄まりつつあるその像を思い浮かべると不思議と良い印象が浮かび上がってくるのです。ここの喫茶店探しはともかくとして、またいずれ訪れてじっくりと散策してみたいと思うのです。



　御殿場線の松田駅のごちゃついた駅の造りをもたもたと楽しみながら窮屈な改札を抜けると視界の少し先には小田急の新松田駅が見えます。がその手前、改札を出てすぐに「モンペリエ」なる乗り継ぎ駅にありがちな、でも今はキオスクとかのミニコンビニに取って代わられて希少となっている、そんなお店のようです。食事から喫茶まで何でもありだから、まあそれはそれで長年重宝されてきたのでしょう。そんな乗客たちがここで乗り継ぐことでどこに向かっていったのか、わざわざ御殿場に行くまでのそう長くない道中で立ち寄るのも不自然な感じがする。それともかつてはどちらの運行本数が少なく、その待ち合わせとして利用されたのだろうか。どうもこれが当たっている気がします。これから二軒の喫茶店に向かうのですが、駅に隣接していると言っていいくらいの狭小なエリアに喫茶店が密集するからには、かつては相当な需要が見込まれたに違いない。









　それも今は昔のこととなったのかもしれぬなどとその未知の喫茶空間を独り占めすることを想像しながら「キャロット」の扉を開けると地元の方らしき女性客がそれなりの人数入っていて、遅めの昼食を取られていました。さほど飾り気のないお店ですが、いかにも駅前喫茶らしいコンパクトで効率の良い店造りとなっています。やがてあまり無駄口を効かずチャカチャカと食事を終えた女性たちは席を立って出て行かれました。この時間がこの日一番の賑わう時間帯だったのかもしれません。気付くと一人残る女性は巨大なリュックを脇に置いています。松田という土地は、もしかすると富士登山客の実質的な起点とも終点ともなる土地なのかもしれません。











　次はお隣の「喫茶 モンタナ」に向かうつもりですが、インターバルも取らずにいきなりでは無粋過ぎるし、店の方に足取りを追われるのも決まりがわるいものてす。しばらく町を歩いてみることにしました古い店舗もそれなりにありますが、呑み屋はあまり見当たらぬし、案外見所のある範囲は狭いようです。駅の向こう側に行けばもう少し見るべきものが潜んでいそうですが、さっきまでやっていた店が閉まってしまっては元も子もない。そう思うとにわかに気が急かされてしまい、駅までを工夫もなく行きと同じ道を通り、急ぎ足で戻ることになるのでした。やはりこちらも階段を駆け上がります。駅前喫茶は階上が似付かわしい。何より駅の改札を出入りする人の流れを眺められるのが、何より楽しいのです。朝の通勤時間帯に急ぎ足で乗り継ぐ人たちを悠々と俯瞰して眺めるのなんて気分がいいだろうし、夜のもの寂しさなど思い浮かべるだけで切ない感情が芽生えてくるようです。などと、スナックっぽさもよい味わいとなっている店内装飾の魅力を尻目につい窓外の景色に視線は釘付けにされるのでした。それにしてもそれなりに広い店内いっぱいに轟くような大声で携帯で通話する馬鹿な弁護士は非常に不愉快でありましたが、今思い起こすとそれも神奈川の田舎の光景としてありな気がするのでした。