夜が待ち遠しい

鎌倉って、けして悪い町ではないと思うし、老後であれば住むのも悪くないなあなんて事を思ってみなくもないのでありますが、お決まりの文句で申し訳ないのですがどうしてもひどく混雑するのが好きになれないのです。ごく普通の喫茶店に入るのに並んでみたり、大体そこに到達するまでに幾度となく道行く人との接触や時には一触即発の衝突を経なければならぬのはやはり精神衛生には良好な結果をもたらさぬはずです。しかしまあ実際に混み合うのは限られた俗な一部の通りに限れているはずです。一方現地の方が用いる道であれば、むしろ寂しい位の閑静と静寂に不安すら感じるのです。人通りの少ないのには理由があるに決まっています。当然のことだけれど、そうした通りには民家が並ぶばかりで、時代を錯誤したのではないかと思わされるような木造住宅もなくもないけれど、その多くは都内の住宅街に立ち並ぶそれと大きく異ならぬのであって、それはやはり退屈でしかないのです。しかし、これは鎌倉に限らず三浦半島全域に共通することかもしれませんが、そんなどうということのない住宅街の中にそれこそ身を潜めるようにして、何某か店舗が紛れ込んでいたりするのだから厄介です。だからこそ、多くの都心生活に疲弊した人達が移り住むような魅力を孕むと言えなくもなさそうです。









「珈琲 井川」もそんなさり気ない場所にあって、それなりの年季を積んだお店らしいのです。しかし予め知っているから入ったようなものの、そうと知らなければ目に止めたとしてもすんなりと通過してしまったかもしれません。都内でも自宅を店舗として用いる例は幾らでもありますが、そうした店舗の多くはやっぱりどうしようもなく一般家庭と地続きである場合が大部分になるのは仕方ないことですが、だから素通りして損をする場合も多い。後になって実はとんでもなくきらびやかな内観である事を知り、大いに後悔する羽目に陥るのでありますが、それ極めて稀である事は間違いありません。なんて書きながら、記憶を絞り出してみるとこの鎌倉のお店は果たして本当に自宅を兼ねているか疑わしく思われてくるのです。実際に店舗部分の内装は茶を貴重とした端正な造りとなっていて、とにかくちゃんとしているのでした。それ故にぼくにはいささか物足りなくも感じられるのですが、これ以上を望むのは贅沢に過ぎるかもしれません。



　鎌倉を出るとまだ明るいけれど、喫茶店はもう充分という気持ちになっていました。鎌倉市場で三浦野菜をお土産に仕入れました。

　最後に下車した汐入駅まで先送りします。汐入では、「カフェ・ド・ラぺ」を見掛けました。しかしちょうど営業時間は終了のようです。でもよくよく記憶の底を穿ってみるとどうも覚えがある気がしてならぬ。帰宅後改めて調べてみたらやはり行ったことがあったようです。記憶が確かならここはちょいといい感じのお店だったはずです。









　横須賀中央駅の近くまでホロ酔いで辿り着くと、「珈琲・紅茶 ミスティ」がありました。ここの事は知っていましたが、確かジャズ喫茶だったというのをどこかで見た気がします。以前も書きましたがジャズ喫茶というカテゴリーはぼくにとってはけして好みではなくて、酔っていなければまたもや敬遠してしまったかもしれません。酔い覚ましじゃないですよ、酔った勢いでお邪魔してみただけのことです。カウンター席には2、3名のお客さんが食事を取りながらお喋りをしています。ここを食堂代わりに使っているようで、それを見ると途端に酔いつつも纏っていた武装が解除されました。奥の隅の席はいつだってぼくの安息の場所です。酒場では入口付近が好きなのにね。特筆するような何かがありはしないけれど、これは確かに昔見た喫茶店の一つのあり方であると思う。酔いの回った頭ではここはとても居心地いい、だからきっとここは悪くない喫茶店なんだろうなあと思いながら、まだ余裕のある帰路を急ぐのでした。

　朝方回り道した見掛けた「かーぽ」はさすがにスルーしました。