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行きたい町は都内近郊にもまだいくらも残されています。特にかつては陸の孤島などというぼくには余り適切とは思えぬ呼び方をされたりもする端的には鉄道網とは隔絶された地域、もしくは近年になりようやく網の目に絡め取られるに至った町にはとにかく好奇心を掻き立てられます。この日はさの両者を一挙に堪能してやろうという贅沢だけれども一抹の不安も拭えぬ行程を立てたのです。それは埼玉県の八潮に行きたいというかねてからの気持ちが突如として昂じ出したある週末のことでした。八潮に行きそびれていたその主たる理由は新興鉄道路線にいずれも共通する運賃に難があったからでした。青井や六町には行っている。でもそれは綾瀬駅を起点にしてとにかく歩きに歩いたその頑張りの結果に過ぎず、本当のところはできれば最寄りまで公共交通機関なりを利用したいし、更にはタクシー、いやその先にもお抱えのドライバーをなんて事も絶対にあり得ぬとは言えぬだろうけれど、そうなってしまっては旅する事に何一つ楽しみがなくなってしまうのではないか。本質とは思い切り逸れてしまうけれど、喫茶巡りにしても酒場巡りにしても事情はそう変わらぬけれど、とにかく不便な場所に行くとそれだけでもう大いに充実を感じるのです。どこにでも苦労なしで行ける身分ならそもそもがこのような酔狂な趣味とは無縁であるに違いない。ただし余りに不便だとそもそもの目的とする酒場や喫茶店などなかったりする訳だから、探検とか冒険とかそういった猛々しさとは無縁であります。多少の苦労を厭わずに我が身を用いること、そして生活を持ち崩さない程度の時間と金銭を投資すること。それ位の慎ましい程度の事がしがない勤め人のささやかな旅にふさわしいのではないでしょうか。稀にご褒美として願ってもみない僥倖に鉢合わせたり出来なかったりする。それでいいのではないだろうか。いつもいつも美味しいものばかりでは飽きてしまいますから。 さて、今回のプランは都内限定と思い込んでいた京成バスの一日乗車券が金町―八潮間のみ適用除外であることを知った途端に仕上がりました。というのも水元公園の都内としては狭からぬ地域というのもじっくりと散策してみたい土地だったからです。それには京成バスが便利であることは当然知っていたけれど、一日乗車券のシステムについてももっと早くちゃんとしたリサーチをしておくべきでした。金町駅を降り出しに何軒かチェックしてある喫茶店を巡り昼食なども摂りつつ夕方頃に八潮に移動、じっくり散策の後、金町に引き返すというコースを予定しました。 詳細な系統名は調べていただくこととしてまずは水元でドンづまる系統に乗り込みました。目指したのはストリートビューで当たりをつけておいた「ファミリー喫茶 ハピネス」です。久し振りのS氏との小旅行で相変わらず会話は途切れがちではあるけれど、それなりに新鮮です。はじめは混雑していた車内もやがて我々を残すのみとなり、終点の少し前の停留所で下車すると運転手のみ残してバスはゆっくりと走り去っていきました。町並みは平凡な住宅街といったところで、それでも町中華と呼ばれるような古いこぢんまりした中華飯店をほうぼうで目にすることが出来ました。そんなやはり住宅街に身を隠すようにして当の喫茶はあったのですが、予測はしていましたがやはり営業を終えてそれなりの歳月が経っているように思われました。 それなりに店舗もあって余り飽きさせぬけれど、かといって路線バスなど車が主たる交通の要になるこの交通の便が悪そうという町にそうした不利な条件を示すような暗さみたいなものは少しもなく、むしろ都心から遠くない町の田園ライフを楽しんでいるかのようなゆとりを嗅ぎ取ってしまいました。「喫茶&スナック 彩」にもそんなあっけらかんとした明るさを感じます。ここは現役かと思うけれど運悪く閉まっていました。 こうして八潮に徐々に接近を試みたのでありますが、このままではすべての喫茶店を逃してしまいかねぬので、典型的な郊外型喫茶、しかしまあなかなかに洗練されている「珈琲 達磨堂」で一休みすることにしました。2階建ての立派なお店で、想像通りご近所のマダム達の社交の場となっており、近くにコメダ珈琲店もありましたが、そちらのお客さんとは客層を異にするようでした。無論、こちらに訪れるお客さんたちの方が水元の町の先住民としての高邁とも思える位の気位の高さを感じさせるのでした。 ここを過ぎると突如として風景が一変してくるのを感じます。気付かぬうちに中川の支流である大場川を渡った辺りだったでしょうか。この時点で、東京都を脱出、埼玉県に突入することになります。この辺りは三郷市と八潮市が入り組んでおり、なかなか行政区分の面でも混沌としていますが、京成バスの戸ヶ崎操車場があります。こうした川が入り組んだ郊外の土地は今ではつくばエクスプレスの八潮駅ができて、陸の孤島状態からは辛うじて脱却したかのようですが、やはり路線バスが住民の主たる足であるようです。だからこの戸ヶ崎十字路の周囲には小規模ながら呑み屋街が取り残されたかのようにあり、何軒かの店が細々と営業を続けています。マーケット跡も往時の賑やかさを偲ばせます。夜になったら八潮からここに戻って呑むのもいいなあなんてこの時点では呑気に思っていたのでした。 やがてバスは八潮駅前に到着します。元の景色は見たことがないので比較できませんが―正確には数年前に車で通過しているはずですが、ほとんど印象に残っていません―、見た瞬間に絶望的な気分に陥ったというのが正直な感想です。それでも少しは歩き回っておこうと向かった「ロビン」はやはりというべきかすでに跡形もなく更地となっていました。中華飯店の「太陽」も全く原型を留めておらず、いろいろと書きたいことはありますが、不満や苦言ばかりになり実際にお住まいの方にとって不快な言葉ばかりとなりそうなので割愛します。 というわけで、とうとう一日掛かりで一軒しか喫茶巡りができないという残念なことになりましたが、それもまた旅の現実です。これからはこうしたことが多くなると慣れておかねばならないのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018/06/10 08:30:04 AM
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